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<採録>【鍋講座vol.41】7年目の独立映画鍋 ~日本の独立映画はどう変わってきたのか、どう変わっていくのか~


【日時】2019年3月6日(水)19:30~21:30
【会場】下北沢アレイホール
【司会】土屋豊、深田晃司
【発言者(発言順)】大高健志、藤岡朝子、大山義人、矢田部吉彦、市山尚三、諏訪敦彦、吉原美幸、西村隆、古賀重樹

“独立映画鍋って、一体何なの?”



土屋:早速、始めたいと思うんですけども、映画鍋って一体何なの?何やってるの?というのがよく分からないという話があるので、深田さんが今、映画鍋を一言で説明するとしたら何ですか?
深田:説明するとなると…互助会、ネットワーク、多様な映画人のプラットフォームという言い方をよくします。“鍋”の部分については、あまり触れない作戦です。
土屋:なぜ“映画鍋”という名前をつけたかを、答えないようにしているということですか?
深田:そうですね。毎回、多分答え方は違うと思います。
土屋:要は深田さんが今、一瞬ためらったように、映画鍋が今年で7年目になる訳ですが、7年間ずっとやってる人達も、対外的に、自分達の“映画鍋”を説明する時に統一した言葉を持っていなくて、それぞれが「こういうとこだよ〜」と言うんだけど、実はそれって「そうだっけ?」というようなことがあったりして、僕ら自身も「鍋って一体何だろうか?」を、もう一回改めて考え直す、丁度いいタイミングになってるんじゃないかということが、今回、こういう企画をしたきっかけです。いつも以上に力が入っていて、目の前に資料がいっぱいあったりとか、パワポで色んな資料を映しながらやっていくんですけど、この7年間の独立映画を中心とした映画史というのを見比べながら、今まで映画鍋は何をやってきたかを紹介します。あわよくば、独立映画鍋がこんなことをしたから、映画業界にこんな影響を与えたんだっていうものが見えたらいいな、という…。
深田:そんな流れになればいいんですけど。
土屋:きっとなんないと思いますけど、目論見としてはそういうことです。ということで、早速始めます。

独立映画鍋 黎明期1993〜2005年まで



土屋:設立が2012年なんですが、映画鍋設立前の93〜05年の間に何が起こったか書いてあります。深田さん、ポイントはどこでしょう?
深田:文字も小さいので、皆さんに見えにくいと思いますが、93年のシネマ・コンプレックスができたこととかは大きいですよね。けど、やっぱり映画のデジタル化ですよね。自分は99年に映画美学校に入ったんですが、自分が映画と関わっていくようになった歩みが、この当時の時代の世相とリンクしてると思うんです。自分はいわゆるシネフィルというか、映画が大好きで、好きな映画の背中を追いかけて、映画学校に入って映画を撮りたいと思ってたんですけど、観てる映画はほぼフィルムの映画だったのに、映画学校に入った頃にはすでに回すものはビデオになってました。私はまだ一度もフィルムでは映画を撮ったことがないんですね。多分、そう言った端境期が、この2000年代だと思います。土屋さんはこの頃、かなりビデオアートと言うか、積極的にビデオ映画を撮ってましたよね?

土屋:まぁ、この年表で唯一足りないものがあるとすれば、一番大きいのは、2005年に諏訪さんの『不完全な二人』ロカルノとか、是枝さんがカンヌ映画祭なんとかと書いてあるんですけど、2004年に土屋豊監督が『PEEP TV SHOW』でロッテルダム国際映画祭国際批評家連盟賞受賞っていうのが入ってないんですね…。
深田:おっ!本当だ(笑)。
土屋:まぁまぁ、そのくらいのもんだと…。これ作ったのは映画鍋のメンバーの人だと思うんで。(会場爆笑)まぁ扱いはそんなもんだっていう…。で、冗談はさて置き、重要なのはここですよね。01年に文化芸術振興法が成立し、03年、文化庁の「映画振興のための懇談会」を経て、提言「これからの日本映画の振興について 日本映画の再生のために」というのが発表され、これを基に、今現在の文化庁の映画行政が進められているというのが一番重要なところです。ということで、この提言がなされたということを頭に入れておきながら、次に行きましょう。

2006〜2011年まで 土屋・深田の出会い



土屋:2010年…自分のことを言って下さい。
深田:私の『歓待』という映画が東京国際映画祭で「日本映画ある視点」部門作品賞を頂いた、ということがありました。
土屋:ここにちょっと大きめに書いてありますけど、2011年2月28日に深田監督が「映画とお金を考える」という座談会をこまばアゴラ映画祭」でやってたんですけれど、そこの経緯は映画鍋の設立に関わってくるので説明しますけれども、2010年の頃は民主党政権でNPO法が改正されたのと寄付税制が改正され、認定NPOになれるハードルが下がったんです。そして、認定NPOの寄付者は、確定申告すれば寄付した金額の40〜50%戻ってくるという法律ができたということを、私の知り合いから聞いて、もしかして、それで映画の寄付の窓口としてのNPO法人を作り、ゆくゆくは認定NPOの資格を取ればいいのではと考えて、色々な人に声をかけていました。独立映画鍋設立に至るまでの準備期間に入ったのが2010年なんですけど、その過程の中で深田晃司という監督が「映画とお金を考える」というイベントをやってる。そんなに名前は知らないけど、話を聞きに行こうかなと思ったのがこの日だったんです。その時の説明をお願いします。

深田:あ、はい。この時、私は映画美学校を出てから、平田オリザの主宰する劇団青年団の演出部に入ってるんですけど、そこで演劇をやらずに映画ばかり作っていて、普段演劇をやってるアゴラ劇場で映画と演劇を両方横断するような映画祭を開催したんですが、その中で気負ってやったのが「映画とお金を考える」というシンポジウムです。身も蓋もない名前なんですけど、やっぱりそれは、2010年くらいから問題意識をどうしても持たざるをえなくなってきていて。自分は元々美学校を出てから映画の美術部や照明部などのスタッフをやりながら、自主映画を作っていたんですが、スタッフとしては連日殴られ徹夜撮影ばかりで、自主映画も予算がないのでスタッフや俳優にすごい苦労をかけてしまう。中野区の鷺宮って所で映画関係者3〜4人とシェアハウス生活をずっとしていて、同居人には美術部でガンガン働いている人もいるんですけど、まぁ〜彼から耳にする労働環境は本当に悲惨なんですね。そういった問題意識を持たざるを得ない環境にいて、一方でフランスで学ばれた美術家・藤井光さんからは、フランスには芸術家や俳優、撮影監督のための社会保障制度があったりとか、助成金の額が全然違うとか、そういった話を聞いて、日本では当たり前だと思っていた業界の常識が世界では全然違うことが分かってきて、それで「こまばアゴラ映画祭」で同世代の映画監督だったり、本広克行さん(『踊る大捜査線』シリーズ監督・演出)みたいなメジャーで活躍されている方にもお声がけして、とにかく映画作るためにはお金が必要なんだから、映画とお金について考えようよっていうシンポジウムをやりました。
土屋:その様子を私、見に行ったんですけど、今と全く同じ様に深田さんが原稿を見ずに、機械の様に当時からフランスのことばかり言ってたんですけれど、深田さんの話を聞いていたゲストの皆さんは、僕の印象ではいまいちノリが悪く、「へ〜、それはフランスの話だからね〜。それを日本でやるなんて考えもしないし、フランスは羨ましいなぁ。でも、日本じゃ出来ないよね。深田さん、頑張って〜!」くらいな雰囲気が、とてもヒシヒシと感じられて。

深田:いや、みなさん熱心に考えて下さったんですけどね。
土屋:なので、「どういうことなんだ?」と思って、少しでもその問題意識を共有出来る人がいなさそうな感じが僕はしたので、逆にむしろ深田さんと話をして、もう少しこの状況を内側から連帯していかないと厳しいんじゃないかなと感じたので、深田さんに声をかけ、独立映画鍋設立に向け動き出したきっかけが、これとなっています。03年にあった文化庁の提言の中では、後でネットに載ってるので皆さん見て欲しいんですが、要は「映画は産業として成り立っていて、映画界が自立的に努力することを自ら宣言しているんだ」という風に読めるんです。だから、「映画界の中で自立的に努力した上で、行政にサポートしてもらえるものはしてね」くらいな感じに読めるんですけど、それだと「時給300円くらいでやっている。どうするんだ?」と考えている深田さんの熱量とは全然違う。なので、そこを映画鍋としてはこれからどう伝えいくか、繋げていくかみたいなことを今後は考えていきたいと、当時はそこまではまだ、考えは至ってなかったですけど、深田さんの話を聞いて、とにかく何かやろうということを決めた、ということです。

2012年 「NPO法人独立映画鍋」設立



土屋:映画鍋は7月23日にキックオフイベントをやりました。何で「映画鍋」という名前になったんですか?という質問に、深田さんに答えてもらいます。
深田:諸説あるんですけど、公式的な見解としては、いわば中華鍋のように色んな具材がその中に入ってきて、多様性のある空間であるというのが、多分公式見解で、あと裏の説としては名前決める時に、元々寄付の受け皿になる団体を目指そうというのがあったので、“社会鍋”との関連もあったのではないかと思うんですけど、色んな名前が候補に上がった中で、「映画鍋」というのが満場一致で決まったのは覚えています。
土屋:そうですね。それまでは、色々…Independent Cinema Guildという英語名は考えて、略したらICGだねっていう話になって、何か硬くて重い感じがしたので「独立映画鍋」になったっていうのはありますね。ただ、現在でも「とてもいい!」という人もいれば、「とにかく名前を変えてくれ」と言う人もいます。名称が映画鍋になって、震災があって、一旦諸々止まったんですけど、震災後に準備をして、翌年の12年にキックオフを出来たんですけど、その間、最初に言った様に寄付の窓口としてのNPOと考えていたのが、どんどん人が増えるにつれて、やりたいことのアイディアがどんどん膨らんでいき、「政策提言までしなくてはダメだ」「労働実態調査もしないとダメだ」と言い出す人がたくさん出てきて、「そんなの、出来ないよねぇ…」とか思ったんだけど、深田さんに押し切られた感はあります。
深田:あ、私ですか?すみません…。
土屋:まぁ、とにかく看板は掲げて、やろうということをその時はみんな、勢いを持ってキックオフをし、11月30日にはNPO法人として設立されました。きっかけは寄付の窓口ということだったんで、当時日本においてクラウドファンディングが世に出だしてきた時期で、クラウドファンディングを使って制作費やら配給・宣伝費やらの資金調達の方法を、映画鍋がサポートしながら出来ないか、ということで、当時は、わりとメインのテーマではあったんです。クラウドファンディングを、最初は映画鍋のサイトでプラットフォームを作って出来るんじゃないか、という話もあったんだけど、さすがにそれは出来ないということで、Motion Galleryさんと提携してやっていくということで落ち着きまして。Motion Galleryの大高健志さんvol.1 『クラウドファンディングを知る 日本で進む資金集めの新しいカタチ』
がいらっしゃってるので、映画鍋とやってみてどうだったか、当時を振り返ってお話しして下さい。
深田:クラウドファンディング、その頃から大分状況は変わってきてると思いますけど…。

大高:もう、大分前の話だな、6年7年経つのは早いな、と思ったんですけど。当時、最初に鍋講座という形で海外の事例とかもみんなでシェアしつつ、という感じだったんですけど、当時と比べて(今は)大分集まる金額が大きくなったなっていうところが、まず振り返るとあった。前は40〜50万集めるのも結構大変だった感じはあったんですけど、今は200〜300万、500万とか普通に集まるようになってきてるっていうところ。と、クラウドファンディングって仕組み自体が、最初はちょっとやっぱり、震災も絡めて、というテーマの伝わり方もあったので、どうしても"ちょっとお金を恵んで頂いてる"みたいな雰囲気になりがちで、貧乏自慢みたいな誤解があって。例えばフィクションを作る場合、芸能事務所の人から「ちょっとうちのキャスト使ってやるの、止めてくれ」とか、そういう話は結構当時はあったんですけど、今はどっちかって言うと、みんなで参加して作っていくという様な、新しい作り方ー“みんな”って言っても、監督・プロデューサーの権限のもと、ただお金を出す人がクリエイティビティに少しづつ関与して、自分事化して映画を捉える様な動きみたいな形に、トーン自体にもなってきて、それが理解されつつあるので、だいぶ広がってきているなと今振り返って思いました。独立映画鍋さんと一緒にやって、より作家性というか、監督が主体でまわして動かしている映画ってところを、ご一緒にサポートして動いてきたのは、個人的には嬉しいなぁと、改めて思っています。
土屋:ありがとうございます。ということで、2012年は鍋講座を4回くらいやって、終わりました。

2013年“世界の映画行政を知るシリーズ”開催



土屋:2013年で言いたいことは?深田さん。
深田:公開本数が史上初の1000本超え。邦画だけでも、多分600本くらいですよね。これって結構凄い数字でして、よくこういう話って自分も色んなところでするんですけど、邦画の興行収入ってずっと落ちてるんですね。最近上がってるって言っても、50年単位で見たら、ずっと落ち続けていて、黒澤明とか全盛期だった頃は、劇場で10億人以上が映画を観ていた。に対して、今はもう1/9かその位まで落ちている。にも関わらず、黒澤明とかが各スタジオが毎週毎週映画を量産していた頃よりも、映画の本数が多いという。需要と供給のバランスがおかしなことになっていて、多分それは、デジタルのインフラが整ったというのが大きいかなって思います。デジタルで撮影しデジタルで上映出来る環境が整ったことが、この2013年頃なのかな。
土屋:鍋講座はこの年、9回実施しているので、月1回とは言わないまでも、それなりの数をやっていて、この時は国際映画祭に出品するにはどうするか、とか、国際映画祭でのコミュニケーションの方法は何か?とか、世界に発信していくのはどうか、みたいなことをわりと多くやった記憶があります。それから、これからの映画鍋を考えるのに軸となるような鍋講座もこの年に出来ていて、“世界の映画行政を知るシリーズ”っていうのを、2013年から始めているんですよね。まずフランス編→vol.11『世界の映画行政を知る フランス編』というのを最初にやったと思うんですけど、“世界の映画行政を知るシリーズ”は、フランスと韓国と日本という順番でやりましたが、ちょっとこの辺りの説明をしてもらえますか?

深田:やっぱり映画鍋で始めた問題意識というのは、“自分達の置かれてる立場を相対化したい”という想いが強かったんですよね。つまり、私達が日本映画で、インディペンデントで大変であるというのは、当たり前じゃないんだ、ということを、まず相対化することから始めないといけないと思い、それでユニフランスのヴァレリ=アンヌ・クリステンさん、KOFICの研究員のチョン・インソンさん→vol.13『世界の映画行政を知る 韓国編』という方と、文化庁の堀口昭仁さん→vol.15『世界の映画行政を知る 日本編』
に3回シリーズに来て頂いて、それぞれの取り組みを話して頂きました。堀口さんに関しては、よくこんな不利な条件で出て下さったなぁ、と感謝しています。
土屋:不利な条件とは?
深田:どう考えても、オチなんですね。フランスがこんなに凄い、韓国がこんなに凄い、日本はあれあれ?っていう。オチになってしまうので。ご本人もそれを分かりつつ積極的に出て下さったので、実りある話が出来たかなぁと思ったんですけど。この3回のシリーズは、結構その後の映画鍋の財産になったと思っています。
土屋:この前も、「もうフランスとか韓国とかと比較するのやめてよ」と言われたことがあるけど、僕もそう思うんです。もう、当たり前ですけど全然、状況、歴史、文化に対する考え方も全く違うので、それを比べてどうのこうの言ってもしょうがないんですけど、そうとは言え、何が違うかということを、ちょっと、今日ここにいる皆さんにも簡単にお伝えした方がいいと思います。フランスの話を聞いてて、一番特徴的なのはチケット税の話だと思うんですけど、少し説明してもらえますか?
深田:そうですね。チケット税は簡単に言うと業界内で資金を循環させる制度です。自分は多分、10年間バカみたいにず〜っと言い続けていることなんですけど、フランスにはCNC(国立映画センター)というのが存在していて、韓国にはKOFIC(韓国映画振興委員会)というのが存在します。これはご存じの方も多いと思いますが。で、日本は、これも問題なんですけど、文化庁だったり経産省だったり、色んな部署がそれぞれバラバラに映画の支援をしてるんで、実際映画(支援)の総額がいくらくらいか分からないんですけど、文化庁に限って言うと、だいたい年間20億円くらいなんですね。これが、韓国のKOFICになると年間400億円前後になって、フランスのCNCでは年間800億円くらいの助成金が、映画振興と映画の多様性を守るために使われています。「多様な映画のために」っていうので検索して頂けると、映画鍋のサイトにちょっと私が書いた説明が載ってるんですけど、そこに文化予算の比較も付いてますが、日本はそもそも、文化予算自体が韓国・フランスと比べ、すんごい少ないんですが、でもじゃあ両国の400億円や800億円が、全部文化予算から賄われているかというと、そんなことはない。だいたい韓国の場合、興行収入の3%、フランスの場合10%が一旦プールされてから、業界に再分配されるというシステムが出来上がっているんですね。そうすることによって、映画の多様性を支えていくっていうシステムになっていて。03年の「産業として成り立っている」という日本の文化庁の認識とは根本から違っていて、彼らの求める多様性とは、産業として成り立った作品が生き残れる弱肉強食の多様性ではない。ゴッホは当時、全く無名だったけど、死後、めちゃくちゃ売れたっていうのはありますけど、芸術的評価っていうのは、必ずしも一時代の経済的な成果には還元出来ないものという考えが前提にあって。そのゴッホでさえ生前は家族の「支援」があったからこそやっていけた。よく最近、多様性について考える時に、極端な例を出しちゃうんですけど、例えばフランスで求められてる多様性というのは、リュック・ベッソンのようなエンタメ映画とジャン=リュック・ゴダールのようなアート映画が、お互いがそのままの形で共存出来る多様性を、彼らは制度を通じて必死に守ろうとしている。でも日本の場合は、ジャン=リュック・ゴダールがリュック・ベッソンに歩み寄ることを求められてしまう。それは、いわゆる公的な支援も少ないし、基本的にはハリウッド型で、全部興行収入で制作費を回収しなくちゃいけない。その上劇場は東宝が寡占状態という状況なので、インディペンデントで作り続けるには厳しく、現場が極端な貧困労働に陥り易いという、悪いサイクルがあります。

土屋:大体のことを、まとめて全て言っちゃってくれましたね…。ありがとうございます。正に状況としたらそういう所で、私が印象に残ってるのは、韓国の独立映画協会の人達が、“独立映画って何だ?”っていうことを定義しているという話を2013年の鍋講座の時に聞きまして、要はちゃんと自分達とは何であるか、というのを言葉として定義していることに、とても「あぁなるほど。進んでいるなぁ。」と思ったんです。その韓国の話を聞いた後に、日本編で当時の文化庁長官官房国際課国際文化交流室振興係長の堀口さんを呼んで、お話を聞いた時に、宿題として私達に出されたなぁ、と僕は思ったのは、「独立映画とは何ですか?自分達で自分達を定義して下さい」って言われたのが一つと、「独立映画の成功って何なんですか?それは(2018年の「カメ止め」のようなものなのか?)儲かることですか?あるいは、持続的に何本も作れることですか?色んな例はあると思うんですけど、独立映画の成功例を挙げて下さい。」と言われた記憶があって。それへの回答はまだ、僕らには出来ていないので、そのことが宿題としてずっと頭に残ってます。
深田:この“宿題”の話になると、韓国のKOFICの話を紹介してもいいかなと思うんですけど、韓国の場合は2000年代半ばから“独立映画”という言葉ではなくて“多様性映画”という用語を考案しています。つまり多様性を支えるための映画ですけど、大きく二つに分かれていて、一分類目は芸術映画、独立映画、ドキュメンタリー映画、クラッシック映画など。次に二分類目はこれも二つに分かれていて。大規模予算か小規模予算かどうかというサイズの側面と、文化価値などの質的側面として、こういった映画を多様性映画として支援しますよ、という基準なんですけど、「①芸術性や作家性を大事にする映画」「②映画のスタイルが革新的であり、美学的価値がある映画」「③複雑なテーマを扱い、大衆が理解しがたい映画」−−これ、よく入れたなぁと思うんですけど。「④商業映画の外で文化的・社会的・政治的イシューを扱う映画」。だから、政治性があることが、むしろ助成金の対象になるという。多分。これは非常に韓国独特だと思います。「⑤他国の文化や社会に対する理解に役に立つ映画」。だから作るだけじゃなくて、多分、興行の方もこれで助成金が降りるという仕組みになっています。
土屋:そういう韓国の状況を知って、さっき紹介した日本の文化庁の方のお話もあったりして、自分達を自己定義し、何を求めていくのか、みたいなことを、もっと真剣に考えなければいけないなぁというのが、2013年、2014年で思ったことなんですけど。なかなか、その時からもう4年とか5年とか経ってるんですけど、出来ていないんですが。新たにそのことをキチっとやっていくために、今、この会をやっているということがあります。
 それから、この年から、東京国際映画祭との連携イベントを始めていて、最初の年は、ずっとクラウドファンディングを中心にやってきたので、「クラウドファンディング・リアル」という、ネット上じゃなくて実際にリアルな場でクラウドファンディングの企画者がピッチをする、みたいなことをやりました。

2014年 "経済的検閲"



深田:(2014年の映画業界の年表を読んで)映画業界的にはもっと色々ありそうなものですけど…何かチョイスがマニアックな気が…。
土屋:まぁでも、また韓国と比較するのもなんですけど、このセウォル号の事件、『ダイビング・ベル』の映画によって、釜山映画祭が大きく揺れたみたいなことがあったと思うんですけど。なかなか、日本で一本の映画によって、その政治性によって、大きな問題化っていうのが起こらないんですけど。それはどうしてですか?深田さん。

深田:あ〜、どうしてなんでしょうね?何か日本だと、政治性に対する拒否反応が強いところがあると思うんですけど、これは多分、色々理由があると思うんです。でも、私の私見ですけど、日本には歴史的な政治アレルギーというのがありますよね。自民党が55年体制でず〜っと一党優位的な体制で来てるので、いわゆる慢性的な政治に対する倦怠感と「投票しても政治は変わんないよ」という選挙への不信感が土壌としてありつつ、連合赤軍とかの事件を通じて左翼的な政治活動に対する忌避感も醸成され。でも一方で、日本映画の世界は、例えばインドネシアやイランや中国とかに比べれば、政治的検閲はゼロではないにしても全然緩いと思います。インドネシアや中国が“政治的検閲”だとすると、日本は多分、“経済的検閲”だと思っていて。結局、経済至上主義の渦中で映画を作ろうとすると、理解され易く売れ易いものじゃないと企画が通りにくくなる。映画って本当に本気で人件費払って作ろうとすれば、当たり前みたいに数千万とか一億とかかかっちゃう表現なので、どうしてもそれを回収しなきゃとなると、政治性が高いと敬遠されるんですね。つまり公的な検閲があると言うよりは、経済的な検閲によって結果的に日本は政治性の強い映画は生まれないんじゃないかっていう…。もちろん天皇制とか日本の戦時中の加害の問題とか実質タブーとなっているようなトピックもありますけど。
土屋:なるほど…。このテーマで話してると、また時間が経っちゃうのであれしますけど、そういう意味では、今インドネシアの話が出ましたけど、交流という意味では、ちょっと話が変わりますけど、インドネシアのインディペンデントの状態はどんな感じなんだろう?ということを含めて、映画上映者の国際交流っていうのもこの年にやってて、日本インドネシアでお互いの映画を現地で上映したり、イベントをしました。この時の成果を、企画した藤岡朝子さん、話してもらえますか?

藤岡:この事業を企画した、鍋のメンバーの藤岡といいます。この映画鍋は、毎月やってる運営MTGに出てアイディアを「やりたいんです」と言うと、みんな案外「よしよし、やろう」となっていくグループなんですね。私は、助成金を取って何か事業を映画鍋でやったら、今後の信用度も増すし、いい流れに出来るんじゃないかなって思ったのでした。私は通常ドキュメンタリーの映画祭をやっている者なんですけど、こういう国際交流と映画鍋を絡める接点を作って、一緒にやってみようと思って企画しました。確か、500万円位の予算規模のイベントだったんです。こういう鍋講座とかはやるけど、映画鍋の人達が上映会を一緒に企画するというのがそれまでなかったので、アテネ・フランセ文化センターでみんなで上映会をしたり、上映した後に、それを観た人たちが集まってその映画について語るワークショップをやったんですね。そういう様な活動が出来て、親睦を深める意味でも良かったし、お互いの映画観、映画についてどう考えているのかということを知り合う、それから新しい観客を新しく呼び込むという活動が出来て、それまでやってなかった珍しい活動が出来て良かったです。
土屋:ありがとうございます。映画の団体なのに上映する機会があまりないのは、今後の課題というか、上映会をやるのはいいですね。勉強ばっかりじゃなくて。で、また年表に戻っていって、東京国際映画祭さんとは毎年、企画を進めさせてもらっていて、この年は「インディペンデントにとっての新しい出口戦略」
というのをやったんです。インディペンデント映画、みんな、作るまでは作るけど、この後どうしたらいいかっていうのが分からない人が多くて、「すみません。作ったんですけど、この後どうしたらいいですか?」というよく分からない質問が結構あるという話を聞いて。作ってどうやって資金回収していくんだっていうことを、事前にプランニングしないでとにかく勢いで作っちゃう。さぁどうしよう?っていうのに応えられたかどうか分からないですけど、そういう人達に対しての“新しい出口戦略”ということを話し合う・伝えるということでこのイベントをやったんですけど、もし良ければ、参加していた大山義人さん…。

大山:当時、私はシネコンの運営側にいて、まさにウィンドウとして出口側にいて、その中でパネラーとして参加させて頂いたんですけども、おっしゃられたとおりですね。驚いたのは、「とにかく出来上がった。色んな寄付をもらって作った。どうしたら映画館でかかりますか?」という質問が、とにかく多かったというのが凄く印象的でした。映画を作る前に最後の出口の所まで考えないっていうことは、どこか、この業界の中で連携がされていない。もしくは産業としてのフォームが見えてないんじゃないかな、というのが凄く印象的でした。ただ、情熱は物凄くあるっていうことは間違いないことは確信して。今はどちらかっていうと作る側に参加させて頂いております。そんな感じで、ありがとうございました。
土屋:この、分からない情熱は皆さんあって、ガンガン攻める人もいますよね。「作品作ったんです、観て下さい!」ストレートにそれを映画館や配給の人に持って行っても、いきなり決まるものではないっていう…。
深田:そうですね、とりあえず情熱で作ってしまうこと自体には、それは大事なんですけど、一回立ち止まって考えるのもいいんじゃないかな、と最近は私は思っています。日本だと結構、極端な低予算でも長編映画がボンボン作られちゃうんですけど、よっぽど内容が低予算でも撮れるようなコンセプチュアルなものでない限りは、本来無理なはずなんですね。しつこいようですけどお金が普通にたくさん掛るので。つまりそれに関わっている人達が最低限食べていくためには、数百万じゃ足りなくて、数千万か一億かかってしまう。映画学校の学生や二十代の若手監督が友達とかと情熱だけで手弁当で作るのも、人生で限られたカードとしてありだと思うし、自分もかつてかなりの低予算で映画を作ってきてしまった十字架を背負っているので偉そうなことは言えませんが、ただ日本の場合、結構それなりにキャリアのある監督さんとかでも、手近なお金で映画を作ろうとしてしまう傾向があって。これは良し悪しで、だからこそ日本映画の多様性が保たれているところもあると思うんですけど、一方で、欧米の私と同世代や若い監督たちは、資金を集めるために年単位で動いて、苦労して何とか最低限の人件費を払えるようになって、ようやく映画を撮るっていうことをやっていることを思うと、日本の作られ方、「とりあえず作っちゃおう」という状況に対しては、いいのかな?という気持ちがあります。システムが悪いときに、いかに自分が局地戦をサバイブしていくかだけではなく、システムそのものを変えていく方に目を向けて欲しいと思っています。
土屋:その辺…と言いますか、いきなり振っちゃってあれですけど、TIFFの矢田部吉彦さんもいらっしゃっていて、今話していた海外のインディペンデント作品の質というか、日本の状況との比較もありつつ、毎年連携もさせてもらってるので、鍋に対するご意見も含めて…。

矢田部:矢田部と申します。まずは映画鍋さんについては、深田さんと土屋さんを「日本映画・ある視点」にお迎え出来たことが、全くの偶然だったんですけど、お二人が映画祭にいらっしゃった後で映画鍋へ繋がって、非常にご縁を感じて、本当にありがとうございます、というご挨拶から始めたいと思うんですけど。今のご質問については、本当に今深田さんのおっしゃったことに一言も付け加えることがないくらいで、数が作られることに否定しませんが、映画祭の作品を選定する作業の中で、海外のインディペンデント映画と比較した時に、国際共同制作を3〜4年間かけて最低限3千万、5千万の資金を集めて長編を作る監督達の作品と比べてしまうと、どうしても見劣りしてしまう作品が多いことは否定は出来ないですね。なので、300万の映画が3本あるんだったら、3本まとめて1千万の映画を1本作って欲しいなぁ、と思うことが、はっきり言ってなくはないですね。ただ、今深田さんがおっしゃったことに、全て集約されているというのも、私の実感でもあります。
土屋:映画鍋が毎回提携でイベントやりましょう、みたいなことを、いつもお話ししに行きますけど、別に迷惑ではないですか?
矢田部:全然迷惑ではない…どころか、ちょうど「日本映画・ある視点」今は「日本映画スプラッシュ」という名前に変わってますけど、日本のインディペンデント映画を応援していこうという部門に舵を切った2年目が深田さんだったんですね。1年目が松江さんの『ライブテープ』だったんですが…。ちょうど映画鍋と独立映画に対する問題意識を高く持ち始めた、歩みを一緒にしている、という思いですので。ただ、私個人の反省としては、なかなか映画祭中の映画鍋の講座に全然顔が出せなくて…。一緒にやらなければならないのに、どうしても自分がちゃんと参加してる感がないのが、個人的な反省です。
深田:映画祭が終わってから来て下さいますよね。
土屋:まぁまぁ、色んな上映会場行かなきゃいけないから、それはなかなか難しいとは思うんですけど、すみません、ありがとうございました。今、プロジェクションされているのが、今言った「インディペンデントの新しい出口戦略」のチラシです。
深田:東宝とは違う、イオンシネマというオルタナティブなシネコン空間で、『ふるさとがえり』という自主上映だけで、確か1万人とか物凄い興行収入を記録した映画の方や、TSUTAYA TV、日本だと後手に回っているだろう、配信についての話とかをしてもらいました。

2015年 大手映画会社の大手映画館チェーン



土屋:(2015年)興収ベスト10のうち、9本を東宝が占める。1位は『映画 妖怪ウォッチ』だそうです。何か一言…もういっぱい言っちゃいましたか?さっき…。
深田:まぁ、大問題だと思いますね。これも、結局問題であるっていうこと自体、まず認識しなきゃいけないと思うんですけど、いわゆる日本映画の最大大手の映画会社が最大大手の映画館チェーンを有しているという状態で、これは東宝だけが悪いという訳じゃないと思います。東宝の人達だって話すと映画が大好きだし、株式会社なんで当然株主に損をさせないために儲けをあげなくちゃいけないわけで。東宝の人達が悪者だとは思ってなくて、結局システムの問題で。例えば、これも色んな所で言いふらしてる話なんですけど、アメリカだと、あれだけ経済主義・エンタテイメントの世界であっても1940年代に、当時のアメリカの大手の映画会社5社がハリウッドの興行収入の8割を独占していることが独禁法に抵触するということになり、公正取引委員会のメスが入って、映画会社が映画館チェーンを持つことを禁止させられたんです。そういったことによって、彼らはエンタテイメントの世界だけど、健全な自由競争の上でのエンタテイメントだということを、きちんと守ろうとしている。それに比べると、やっぱり日本の場合、日本映画の興行収入の8割を東映・東宝・松竹の3社、特に東宝さんがシェアを持ってる状態なので、それは非常に不均衡な状態ですし、シネコンの枠に入れないインディペンデントには残された2割のシェアしかなくて。結局助成金とか寄付金とかがが少ない世界だと、市場規模からしか映画の製作費は逆算できないので、現場が貧困労働になってしまって、時給300円みたいな話が出てきてしまうという…。あるいは、撮影日数を、本来4〜5週間で撮りたいところを、1週間や2週間で撮らなければならないとか。そういったことが、ベスト10のうち9本が東宝が占める、という図式から感じられます。

土屋:去年とかも文化庁の方をお呼びして、その席でも出たんですけど、行政の人とそういう話も勿論必要だけど、やっぱり映画製作者連盟の人々と映画鍋で何か話が出来ないのか、みたいな機運が今、高まってるかなぁ…そういう話が出てますよね?
深田:こないだ、映画製作者連盟の某社の重役の方と話して、「ぜひ日本版CNCを作ろう」という話をしたら、一応のってくれました。
土屋:のってくれた…???
深田:「企画書を持ってきたら、映画製作者連盟のみんなと話す」みたいなことを…。
土屋:そんな簡単にいかないでしょう…?
深田:まぁ、いかないでしょうけどね…。
土屋:なるほど、のってはくれた!では、話をするべきですよね。ということで、東宝が、みたいなことを見ながら何もせずってことではなく、キチッとそのためにどうするかってことを、映画鍋として考えていきたいと思っているということです。

2016年カンヌ受賞が巻き起こした“深田効果”



土屋:だんだん記憶が新しくなってきて…まぁ、ここは深田晃司『淵に立つ』カンヌ「ある視点」部門審査員賞受賞。でもこれは…インディペンデント映画なんですよね?
深田:結局、独立映画って何なんだ?ていう所にも被ってくると思うんですけど。この映画に一番の出資をしているのは名古屋テレビという所なんですね。次がイオンエンターテイメントさんと、それなりの大手が出資してくれてる映画です。で、独立映画ってなんぞや?という議論が7年間、ず〜っと答えが出ないままグルグルしているんですけど、やっぱり自分の中では、監督や企画したプロデューサーなど、主体的に作りたいと思っている人間が、ちゃんと創作の独立性を保っていることが大事だと思っていて。日本の場合は独立性を保つためには、お金を貰ったら独立性は保てなくなるので貧乏でいなくちゃ、となるんですけど、海外の場合は、ちゃんと2〜3億円をアチコチから集めて自由に撮るということをやったりしている。そういう独立性という意味では、『淵に立つ』は企画プロデューサーの支えもあって好き勝手に撮らせてもらったので、独立映画だと思っています。
土屋:なるほど。そういう深田さんの「ある視点」で審査員賞を受賞したことで、それが様々、やっぱり大きく報道され、広く知られるようになり、その中で深田さんが映画鍋のことを、色々インタビューやら様々なメディアに対して言ってくれたので、“深田効果”と映画鍋では呼んでましたけども、メンバーがかなり増えたんですよね、この時期ね。7月の時点ではまだ149名なんですけども、これからどんどん増えていって、今は100名増えて240人位になっているので、中でもこの2016年の“深田効果”が結構大きかったというのが、事実としてあります。

2017年 東京フィルメックスとの連携企画



土屋:この年に、初めて東京フィルメックスとの連携の企画をやらせてもらって、TIFFでは「映画業界本音ガイダンス」というのをやって。
深田:学生のための企画ですね。就職ガイダンス。
土屋:映画の現場の話でしたよね?これ。
深田:映画鍋会員の最近まで学生だった若い方の発案で始まった企画で、プロデユーサーの人とか、制作部の人とか、助監督の人、車両部の人に来てもらって、現場の話をしてもらいました。映画の仕事って大半が上フリーランスの世界なのに、いわゆる就職の窓口みたいなのはないですし、みんな不安なんですね。業界ってどうやって入ったらいいか分かんないし、しかもああいう事情なんで、極端にブラックな現場がメチャクチャ多いので、入ってみても嫌になって田舎に帰っちゃう人とかいたりするんで。
土屋:田舎に帰る…?
深田:まぁ、いたんです。すみません。なので、もうちょっと「いや、そんな現場だけじゃないよ」ということを、ちゃんと第一線でやってる人達に来てもらって、学生達に…。いつもの鍋講座では、こうやって一時間くらい話して質疑応答なんですけど、この時はひたすら質疑応答だけを二時間半やりました。これ、結構好きな企画ですね。
土屋:で、その一ヶ月後の東京フィルメックスでも、初めて連携企画をやらさせてもらって、「インディペンデント映画って何だ⁉︎」
っていうタイトルで。まぁ、今日これまで話してきたようなことをストレートにテーマにしたシンポジウムではあったんですけれども、日本のインディペンデントの監督と、韓国のエレン・キムさんとかに来て頂いて、韓国と日本のインディペンデント事情を話しながら自分達で自分達を定義する、インディペンデント映画ってなんだ?というのを、実験的にやってみた、というのがこの会でした。また、Platform Busanという、釜山映画祭でアジアでのインディペンデント映画のネットワークを作っていこうという釜山映画祭の中で動きがあって、そこに参加したということもありました。“日本インディーズ代表ってなんで独立映画鍋が代表になってるんだよ”という批判もありました。

深田:勝手に代表面すんなっていう…。どういう経緯なんでしたっけ?
土屋:イマイチ良く分かってない…んですけど。
深田:まぁ、なんとなくそんな流れになって…。
土屋:そんなこともありました。

2018年 独立映画の成功って何?



土屋:去年の話なんで、皆さん記憶に新しいと思うんですけど、何と言ってもこの「『カメラを止めるな!』が大ヒット」。210万人、32億円くらいの大ヒットをしました。ちょっと、この事については話しておいた方がいいと思うんですけども。
深田:話しますか?めっちゃ長くなりますよ?
土屋:はい、短めにいきたいんだけど。最初に「独立映画の成功って何なのだろう?」というのを問われたという話をしましたけれども、興行という意味ではとんでもない成功ですね。考えられないくらいな…。
深田:そうですね、もう100年に一度あるかないかっていう。まぁ上田監督、才能あるから、どんどん出すかも知れませんが。
土屋:で、これがもう出来るんだから、もう「お金がないから俺達は全然ダメなんだ。助成金くれなきゃ何も出来ないんだ」ということに対しての言い訳はもう出来ないよ、という言い方もあったんです。それに対して、どういう見解を…とりあえず深田さん。
深田:私としてはその意見は短絡的過ぎると思うし、賛同できないですね。ただ非常に複雑な気持ちです。『カメラを止めるな!』は、実は推薦コメントも書いていて、作品としてはとても力があるものだったとは思っています。ただ、作られ方に関しては、私はとても不満です。言わばワークショップで映画を作るっていうことが、ここまで肯定されていいのだろうか?っていうことですね。ワークショップで映画を作るって、今に始まったことではなくて、300万円以下の予算で作られた『カメラを止めるな!』が大ヒットして、Twitterで「でもこれでいいとは世のプロデューサーたちには思わないで欲しい」みたいな書き込みを見かけたのですが、いやいやここ10年近く「これでいいんだ」と黙認され続けてきたのに何をいまさら、と思ってしまいました。…ちなみに監督はめっちゃいい人です。作品は全く飽きずに一時間半一気に観れる、非常に面白いものでした。それはそれとしてっていう話です。で、映画の製作費の低予算化というのがここ半世紀の間ず〜っと進んでいて、ここ20年でさらに加速している。さっきも言ったとおり、映画を作ろうとすれば、当然人件費を払わなくちゃいけないので、ある程度キャリアのある作家とかプロデューサーとかは、2年とか3年とかお金を集める努力をするんですね。それで少ないなりに人件費を払うことで、業界の健全な多様性が保たれていく。つまりそれをしないと、自分もその一人ですが結局は貧乏耐性の強い人、収入が少なくてもお金を払ってワークショップに参加出来るような人が生き残り易い業界になってしまう。それは大きな問題だなと思っていて。日本映画はず〜っと貧しくなり続けていて、Vシネマが2千万円まで予算が落ちて「こんな低予算で映画作れないよ」と嘆いていたら、あっさり底が抜けて数百万で映画作れる様になって。2010年以降に『青春H』というシリーズがあって。私の友人も何人も監督してるんですけど、それが50万円前後の予算で長編映画を作るっていう無茶をした。一週間映画館で公開して、すぐにDVDリリースするという。「うわっ、ここまで来たか」と思った。当然50万円で映画作ると、ギャラもほぼ出ないですし、監督もプロデユーサーも自分の人脈を投資していかざるをえない。そこが底辺だと思ってたら、さらにワークショップ映画が現れて、俳優からお金を取って映画を作るっていうことが始まりました。

 私自身は、そういったことが、この一部の大手会社が独占している中で、日本映画の多様性をギリギリ支えていた面というのは全否定はしないけど、例えば欧米の監督だったら2〜3年かけて必死にお金を集めて、それでも集まらなかったら、「どうしてもこれは撮りたいからノーギャラで出てくれ」と、監督やプロデューサーが頭を下げていて、例えばアメリカでもウルトラローバジェットの申請をすれば、組合の規定よりも低い金額でスタッフを使うことが出来る。人間関係を投資しているわけですよね。でも結局ワークショップ映画で嫌だなと思うのは、本質的には誰も頭を下げる人がいないこと。極端な低予算での映画作り、いわゆる「やりがいの搾取」を教育の美名の下で制度化してしまった。プロデューサーは本来、例えば上田監督の『カメラを止めるな!』程の優れた脚本があるんだったら、数年かけてお金を集めるべきだと思うんですけど、そういった当然のリスクを負わないでほとんどワークショップの費用の管理だけで長編映画を作ってしまい、しかもその権利を手にする法人がいるという構造はえげつないと思いますし、結局、長期的に見れば日本映画の多様性にとって、大きなマイナスだと感じています。
土屋:作られ方に、まずは大きく問題があるんじゃないか、と…?
深田:あともう一つは、『カメラを止めるな!』は普通に私は面白かった、ということを大前提にして話すんですけど、この『カメラを止めるな!』が日本映画の多様性をどれだけ広げたかというと、やや懐疑的です。勿論この映画が32億稼いだおかげで、今年潤った映画館は多いと思いますし、それは非常に良かったと思うんです。当然賞賛されるべきだし、自分の映画ではとてもそんなこと出来てないので、本当に「ごめんなさい」という感じなんですけど。あ、日本全国のお世話になったミニシアターの皆様、本当に思ってます。ごめんなさい。『カメラを止めるな!』が何か多様性を広げたとすれば、日本のエンタテイメントの多能性を広げたのだと思います。いわばノー・スターで映画の面白さを武器にここまでの大ヒットを出したのは素晴らしい成果だと思う。ただ、先ほど言ったように日本映画の多様性の貧しさというのは、リュック・べッソンとジャン=リュック・ゴダールが、そのままのかたちで共存出来る多様性じゃないことなんですね。日本映画の場合はジャン=リュック・ゴダールがリュック・べッソンに歩み寄ることを求められてしまう。分かりやすいオチだったり、涙だったり、笑いだったり、より幅広い共感性の高いものを求められる。そういった面で言うと、『カメラを止めるな!』はとても良く出来たエンタテイメントがきちんとヒットしたっていう点では、素晴らしいことなんですけど、じゃあ、これが日本映画の多様性をどんだけ広めたかと言うと、そこまで楽観視は出来ません。

2019年 日本版CNCを作りたい!



土屋:2019年は今年だから、(年表が)スカスカになってますが。凄い飛ばしましたけど、鍋講座や各映画祭との連携イベントをやりながら、インディペンデント映画に公的助成が必要であるということを、どう社会の人・納税者の人に理解してもらい、賛同してもらい、協力してもらうかを念頭に入れながら、映画鍋をこれからやっていこうと思っておりまして。
飛ばしてしまいましたが2018年8月には、文化庁から担当官が登壇し、文化助成を考える講座をしたんです。この講座は、なかなかこういう…その時の登壇者は深田晃司監督と舩橋淳監督という制作者の二人が、文化庁の担当官と直接、膝を突き合わせて色々お話をするというのは、ありそうでなかった特別な機会を作れたと思うんですけれども。→vol.40「これからの文化助成を考える〜2018 年度文化庁文化芸術助成制度の改変を受けて」
その時の感想とか…。

深田:やっぱりこうやって文化庁の方とお話しをして感じるのは、省庁と映画業界との断絶ですよね。各省庁はそれなりに実は、映画のこと支援してくれているんですね。文化庁は、少ないなりに助成金を出してくれているし、外務省は東南アジア各国で日本映画祭を開催して、自分もその企画で、インドネシアで自作を上映したりしました。厚生労働省とかも、それなりに映画に支援してくれている。経産省も悪名高いとはいえど“クールジャパン”で一応、お金を落としている。結局、フランスや韓国にあって日本にないのは、業界のまとまりなんですよね。フランスはCNCに問い合わせれば、フランス映画に今、何が必要で何が問題なのか、最新の情報と知見があるし、業界の声がそこにある。韓国もそうですね。ただ日本にはそれがない。やはり日本でもメジャーとインディペンデントを横断した、日本版CNCみたいなのが必要です。韓国もCNCをモデルにしながら、韓国の文化に合わせた韓国版CNCとしてKOFICを作りました。韓国に出来るなら日本でも出来るだろうと思うんですね。楽観的に。

独立映画鍋のミッション 


土屋:そういう流れの中で、私達が「映画鍋って一体何なの?」というのを、もう一回考え直し、今、深田さんから話があったような、映画行政と映画業界を何とかして繋いでいけないか、みたいなことを、改めて考え直しつつあります。それで、まずは対外的に、私達のミッション、目指すゴールは何なんだ?を、NPO法人として目的をはっきりさせて、言葉にしようということを今やってて、深田さんと私とあと様々な人と3〜4か月やっても、まだ出来上がっていませんが、今日は現時点の暫定的なミッション・ステートメントを皆さんに初めて公開するんですけど…。「そんなに考えてこんなもんかよ」と思われるのが一番恥ずかしいんですけど…、すみません、こんなもんしかまだ出来てないです。どうぞ!

ミッションステートメント作成【暫定】の報告


土屋:暫定です…まだミーティングとかで全員に話をしている訳じゃなくて、まだ一部だけの暫定的な案です。

深田:これ、良いじゃないですか…。ちっちゃく拍手が起きましたよ。
土屋:一人か二人は拍手をしてくれた…(会場:拍手)あぁ…まだ決まりじゃないですけど、こんな感じはどうかな?っていう。とにかく簡単で、映画業界以外の人に伝えるための言葉、というのがコンセプトです。続いて前文ですが、前文というのは「独立映画鍋って何なの?」と言われた時に一言で言える、ログラインみたいなものです。

(会場:拍手)
土屋:まぁ多分、皆さん、この場でお世辞とかで拍手してくれてるのかも知れないけど、広過ぎて何するのとかよく分からないようにも見えるよね。今、ふと思いましたけど。“全ての人に開かれたネットワーク”で何するのか…まぁ、前文だからいいんだけど…。
深田:“支える”だったのですけど、それだと「支えないといけないのか?」というプレッシャーがあるんじゃないかで“愛する”にしましたが、「愛さなきゃいけないのか?」という、また…。
土屋:そうなんだよね…考え過ぎますね。まぁ、でも揉んでいきましょう。で、いよいよゴール…何を目指すのか。

土屋:これはわりと気に入ってるんですけど…。
深田:いいと思いますよ。
土屋:何を目指しているのかというのは、ただ映画を作りたい人が、お金がないから「くれ、くれ」と言ってる風に見られちゃうのは、一番、本旨と違うので、とにかく多様な映画に触れられるということが、イコール、世界の多様性に触れられるということで、そういうものが観られる環境がある社会がとても民主的であるみたいなイメージで、とりあえず今、作ったところです。その、ゴールを目指すための使命(ミッション)は…!

深田:本当に出来るのか?っていう…
土屋:今のところの暫定案としての“私達の使命”なんですけども、多様な映画っていうのは公共的な価値があるというのを社会に伝えていく。「映画好きの人が勝手に映画作って、趣味でやればいいじゃない。そんなんでお金儲からなくて文句言われても、何なのよ?」ということに対して、多様な映画というのは公共的な価値があることを、伝えていくと。
2番目は、映画に関わる人と、映画・文化行政に関わる人と、社会・納税者・一般の人達の間を繋げていくというイメージで橋渡しという言葉を使っていて、映画人と言っても、映連の人の話も出てきましたが、当然色んな立場や考え方の人がいて、産業としての映画で、大メジャーもあれば、時給\300で働いている人もいる。そういう人達…映画業界の中も繋げていきながら、それと行政を繋ぎ、社会と繋げることを目指していくということです。

3番目は、独立映画の持続可能な環境を整え映画文化の多様性を支える、ということで、ここはちょっと深田さんとかと話し合いながらも、意地を出したと言うか。独立映画の持続可能な環境を整えていって、その独立映画が持続可能であることによって、映画文化が多様なんだ。私達は独立映画を作る・広げる者の立場としてやっていくんだ、ということを表したくて、独立映画という言葉を入れた…、という説明で深田さん、いいですか?
深田:はい、いいと思います。
土屋:というのが、ミッション3つでした。これについてはちょっと後で意見を聞きたいと思います。

ゲストのご意見


土屋:ということで、これから皆さんの意見を聞きながら、まだディスカッションみたいなことで広げていきたいと思うのですけれども、もしよければ東京フィルメックスの市山さん…。先ほど説明しましたけども、去年、一昨年と連携企画で「インディペンデント映画ってなんだ!?」とか
「インディペンデント映画と公的支援〜日本の映画行政について考える〜」など、一緒にイベントをやらせて頂いた、市山尚三さんです。今のミッションステートメントであるとか、一緒に去年フィルメックスでやった企画などを含めて…。

市山:映画鍋でやっぱり、一番重要だと思うのは、文化庁の人達と対話の場を作ったこと。その結果がどうかという検証は必要とは言いながらも、それまでは、いわゆる単年度助成しかなかったものが、2年度助成とか、あるいは1,500万円の助成が今年できたと。これはまぁ、もちろん映画鍋だけではなく、色んな人達が主張してたことを文化庁が受け入れたということだと思うのですが、やっぱり一つの団体・組織がまとまって、こういう話をするというのは、凄く大きいと思うんですね。もちろん、是枝監督をはじめとして、色んな監督たちが、日本の文化行政には問題があるということを発言されてるとか、色々な要素がおそらく、重なってると思うのですですが、やはり個人で言うだけでなく、組織としてそれを主張してるというのは、やはり、文化庁の方も考えない訳にはいかなくなるということはあると思います。今までは、実はそういう組織がなかったんですね。映連という組織は、メジャーの組織ですから、インディペンデント映画の助成とかには「興味がない」というところがありますし、独立映画協議会とかも、ここにいらっしゃる皆さんとはちょっと違う組織であるので、今までインディペンデントの人達が集まって、声を上げるというものが存在しなかったのが、映画鍋が今、その存在になってきているというのは、凄く大きいことだと思います。
土屋:あぁ…、ありがとうございます。素晴らしい!やってきて良かったと思えるひと言…。(会場爆笑)
市山:この前、パリでも言いましたよね。パリで、ちょうど、国際共同制作で、深田さんが主張されてる、フランスと日本の合作協定が、まだ結ばれてないのですが、これから結びましょう!という(発表があった)。僕も結ばれる機会がついに来たかな?と思ったら、そうじゃなくて、まだこれから結びましょうという状況だったのですが、それでこの間、パリの国立映画センターのホールで式典みたいなことが行われて、例えば東宝や角川の社長さんとか、映連のかなり上の人達皆さんが来て、その場でフランスとの国際共同制作の経験者として、パネルディスカッションで河瀨直美さんとか、フランス在住のプロデューサーの澤田さんとかと一緒に上がったんですけど、そこでフランス人の方が質問されて、「深田晃司さんが何か団体を作って…」

深田:おっ…!
土屋:凄い…世界的に“深田効果”!
市山:フランス人の関係者の方が、それ質問したんで「どういう団体なんでしょう?」とみたいなことを言われたので、僕はすかさず、そこで映画鍋の話をして…。
土屋:あぁ、ありがとうございます…、素晴らしい…!
市山:やはりそれは、ある種の、インディペンデントの人達の集まりがあるというのと、ないとでは、凄く大きいと思うんですね。その点、昔から、実は、「誰かがやるべきだ」という話は、みんなで雑談ではしていたのですが、雑談だけで終わって、組織化されなかったものを、ここまで続けられたというのは、凄く意義のあることであると思います。
土屋:ありがとうございます。市山さんが来てくれて良かった…。
深田:ありがとうございます。今日はこれで終わってもいいんじゃないか…?
市山:これで終わりじゃないので。今後、更にどんどん、色々!
土屋:今ので、しばらく、数年は持ちます!…すみません、これ以上のコメントを求める訳ではないのですが、よろしければ、諏訪さん、何かご意見・感想とかありましたら…。去年のフィルメックスのゲストで来て頂いた諏訪敦彦さんです。

社会に対して説得する言葉を持つ必要性



諏訪:前回参加させて頂いて、それを期に、鍋の会員として参加させて頂ければなという風に思ってまして。僕自身は、ここ10年以上、フランスでしか映画が撮れなかったというかですね、フランスでやってきた。フランスの中でどういう風にやってきたか?っていうこと、日本でどうして撮れないのか?なぜフランスで撮らなければならなかったか?については、また別の機会にお話出来ればというのはあるのですが、自分はフランスで撮れるんだからいいじゃないかということで終わってしまいたくないっていうか。フランスで撮ることによる、フランスの助成システムは、かなり鍋でも紹介されてると思いますし、確立されたものだと思うのですが、誰でもがフランスの助成を受けながら、映画を撮れるものではない。だから、日本においてその状況をどういう風に改善していけばいいかということについては、何らかのお力になりたい、という気持ちはあります。やっぱり、社会に対して、色々な人がバラバラに言って「色々な考え方があるね」ということで終わってしまうと、連携の仕様がない訳ですよね。文化庁にしても「出来れば、映画の業界が一つにまとまって欲しい」という思いをお持ちだと思いますし、かつ、日本の場合はどうしても税金を使わなければならないので、お話にあったような「社会に対して説得する言葉を持つ」ということを、やはり僕達も痛感しています。

 一方で、映画鍋で土肥悦子さんが以前、映画教育問題についての鍋講座に参加しました。→vol.38「映画教育の”いま”と”これから”〜こども映画教室の実践から〜」なぜ、映画教育に社会的な価値があるのかについては、言葉を持たなきゃいけないということは、痛感していますね。色々な助成を受ける上でも、何で映画教育することで、社会にとってどういう価値があるの?ということについて、僕達は社会的意味があるからやっている訳ではなくて、やってることに言葉や形を与えていかなければ、協力して頂く人を繋いでいくことは難しいと、やっぱり痛感しています。だからこうやって、「恥ずかしい」と言いながら、その一つの言葉を発信されていく言葉を洗練していくことによって、映画の人が、やっぱりそういうことをしてこなかったということを、凄く感じるんですね。自分達のことしか考えてこなかったというかですね。もしかすると映画というものに、それほど関心を持ってない人に対しても繋がる言葉っていうのを、僕達は持っている必要があると思います。(会場:拍手)
土屋:ありがとうございます。まさに、べつに一個になるっていうことではなくて、バラバラになっていたことを集めて、塊として見せていくっていうことが、一つ、それが大きな力になるっていうのは、諏訪さんのおっしゃるとおりだと思うので、それを今後も続けていきたいという風に思っております。この流れで今、映画教育の話が出てきたので、今日、すごい指してて、後で怒られそうですが、吉原美幸さんがいらっしゃるので。鍋講座で少子化対策のお話をして下さいました→vol.19『映画人口の少子化対策?!〜映画体験を学校で〜』
吉原:鍋講座では、主に学校上映のお話させて頂いてました。当時、新日本映画社という、自主上映とか映画配給もやっている会社にいたんですけど、今、主に児童養護施設など「社会的養護下」の子供の自立支援をしているNPOにおりまして(NPO内では戸籍姓の梶原で活動しています)、やっぱりその中でも映画教育を続けていきたいなと思っていて、自立支援の中で、インターン制度を(運営しています)。色々な街の利用者さんとかやらせてもらっている中で、私の懇意にして頂いてた下高井戸シネマさん、横浜シネマリンさん、アルゴピクチャーズさんで、児童養護施設の子どもにインターンをしてもらってます。その中で今、自分が映画業界から離れて凄く感じるのは、映画館のインターンに参加してくれている中学生や高校生はみんな、「映画大好きです!」と言って参加してくれるんですけど、下高井戸シネマのロビーに並んでるインディペンデントのチラシを見ると、「何これ?」って、全然今まで自分がシネコンで観てきた映画とは、何か自分が思ってたのと違う映画の世界があるっていうのが、大体初日の反応で。でも、3日くらいインターンやって、最終日になると、「何かこういう映画も世の中にはあるんだ」って言って、凄い生き生きとして帰って行く姿を見ると、私も15年間、映画配給の仕事をしてきて、やっぱり映画の仕事の中にいると、凄く深く見ちゃうんですけど、今、3年くらい業界を離れて今日のお話を聞いてると、さっきも「外の世界に通じる言葉が必要だ」っていうお話がありましたが、もちろん深く掘り下げることは大事だと思うんですけど、やっぱり特に10代の子達に色々拡げていくようなことがあればいいな、と、改めて思いました。
土屋:ありがとうございました!多様な映画、多様な世界があるってことを、高校生ぐらいの人達に伝えていくっていうのは、とても…その後の世界の見え方が違ってきますからね。
深田:そうですね。よく例にあげるので、聞いたことある人もいると思うんですけど、フランス…“またフランスか”ですね?フランスに限らず、ヨーロッパでは鑑賞教育というのが進んでいて、例えば小学生が義務教育で小津安二郎を観てるということが普通にあって、しかもその文化的背景まで勉強するという。それが小学校でなされてるか、なされてないかで、どれだけ文化の多様性に対する見方が変わってくるか。すごく重要だと思っていて。日本の小学校で、例えば、イラン映画を鑑賞して文化的背景を勉強するだけで、ただ単に悪の枢軸国ではないその国の側面が見えてくる訳で。映画というのは、そういった異文化を知るための窓としての公的な価値があって、それもきちんと伝えていきたいなと思いますね。
土屋:大丈夫ですか?そろそろ電池が切れそうな状態ですか…?(※この日、深田は朝から体調不良でした)
深田:まだ大丈夫です。
土屋:わかりました…。すみません、最後にあえてした訳じゃないのですが、過去にゲストで来て頂いた方は、みんな指す方針でやっているので、今、わりと自由になられたと、ちょっと小耳にはさんだのですが、元ユニジャパンの事務局長の西村隆さん →Vol.6「助成金を知る/公共のお金で映画を作る?!」がいらっしゃっているので、これまでの流れを聞いて、何かご意見がありましたら、お聞かせ頂けると有難いです…。

西村:去年の春にユニジャパンを、定年退職みたいな形で辞めまして、それまでは行政と業界の間にいる立場だったのでちょっと遠慮してたんですけど、辞めたんで、もう遠慮ないかな、と、鍋の会員にならせて頂きました。さっきのミッションステートメントで、何か言わないといけないんだろうなと思うんですけど、言ってることは、もう全く異議なしで、素晴らしいと思います。で、行政との架け橋ということがあって、行政とのお付き合いが長かったので、ちょっとそれについて思ってることなんですけど。よく業界の人達が、行政・お役人に対して言うことが二つパターンがあるんですね。一つは「ワシらがやるから、お前らは黙って金だけ出してればいいんだ」と。ズーッとこう言うパターンが日本映画で続いていました。それはもう、絶対に不可能なことで。国っていうのはタニマチではないので、やっぱりお金を出す理由が要るんですよね。それは法律に基づいていて。さっき、前に土屋さんが「独立映画の定義って何ですか?」っていうことをお役人に言われた、と。やっぱりそういうことを、ちゃんと言葉として提示していかないと、まず国は動けないというのは、一つあります。
もう一つは、「国(行政)の中に映画を解ってる奴がおらんから、ダメなんだ」。これもよく言われることなんですけど。そもそもお役人というのは、2〜3年で動いちゃうんですね。スペシャリストというのはお役人にならないというのが、日本のあり方です。だから、スペシャリストを期待しても、しょうがない。むしろ、お役人に期待するのは法律とか、色んな国の支援とか、そういうことをどうやって動かせばいいかっていう技術、助成の仕組みの技術を知っといてもらえれば、それで結構。映画の中身に関しては知らなくていいんだと。それはむしろ、映画側が用意しなければいけないことだ、という風に思います。そういうことで、鍋の人達には、このミッションステートメントに続く言葉を、具体的なことも含めて作って頂けるといいかな、という風に思います。
土屋:ありがとうございます。
西村:期待しております!
土屋・深田:ありがとうございます。
土屋:これまでのご経験から、このミッションステートメントの内容というか、こういう流れでいけそうな感じは、西村さん、しますか?
西村:します、します!
土屋:あぁ、しますか?ありがとうございます!
深田:じゃぁ、進めていきましょう!

土屋:何かもう…自分を励ますような感じになってますけど…。なんかまぁ、内幕的なことでアレですけど、いや、単に愚痴ですけれども、映画鍋は年会費¥4,000でやっていて、今200人くらいですから、¥80万くらいで、僕ら事務所もないですし、¥80万で有償のスタッフなんて雇えるはずがないですし、月1〜2回のミーティングをやって、こういう資料も全部ボランティアで用意して、とにかく、お金を一円ももらってなく、逆に会費を納めてこういう会を開き、みたいなことをやっていると、時々「あぁ〜もう何でこんなことやってるんだろう?」的な、ちょっとあるよね…。
深田:凄い分かりやすい愚痴になりますね。(会場爆笑)
土屋:一応、言っといた方がいいかと思って…。
深田:まぁまぁ、土屋さんは本当にお疲れ様です…。
土屋:いや、ありがとうございます。これが最後になっちゃいけないんです!これを最後にしちゃうと、全然話が面白くなんないんですけど。
色んな方の色んな話が聞けて、本当に今日は具体的にもなったし、とても僕としてはいい会だったと思うんですが、深田さん、どうですか?
深田:7年間が何か、これが鍋の最終回みたいに…。もう人生が終わるんじゃないかみたいな気持ちになってますけど。でも本当に7年前と、日本映画の状況が変わりましたね。皆さんの話を聞いていても、立場も変わっているし。
土屋:最後に「日本映画が変わりましたね」っていうことを語るのに一番ふさわしい…、ごめんなさい、今日、指しまくりで…。日経新聞の古賀重樹さん →vol.5「新しい配給宣伝の方法を企む公開作戦会議」、いらっしゃってるので、ちょっとその辺…。
古賀:7年目と聞いて、「そうか」と思ったんですけど、その1年前に神田か何かで、準備の会合とかやりましたよね?
土屋:やりました。

古賀:その時から、一体どうなるんだ、これは。この人達は一体何をしたいんだ?と思ってたので、「凄いな」と、その後の8年間で本当に目を見張るものがあったと思います。助成制度に対する働きかけとか、その辺の組織体としての動きっていうのは、さっき市山さんがまとめられたとおりで、本当に素晴らしいと思います。それ以外の意義があるとしたら、多分、メッセージを発し続けたことかな。これだけ頻繁に講座みたいなことをやって、今の独立系の映画の作り手達は、こんな問題意識を持っているんだ、こんなことに困ってるんだ、こんなことで悩んでるんだ、というのが良く分かりました。それはつまり状況論なんですね。状況論を提示し続けたということに、もの凄い意味があると思ってて。それは本来、我々ジャーナリストの大きな役割であるはずなんだけど、やっぱりそこは、もしかしたら凄く弱まってるのかも知れない。状況論を語るってことが、過剰に流行っていた時代というのが多分、ちょっと前にあって、それがだんだん流行遅れになっていって、どんどん語られないうちに、語り方さえも忘れてしまった様な時代になった時に、忽然と独立映画鍋が現れたんじゃないかな、という気はします。やっぱり、続いて来たっていうのはそれだけ、困っている人がこんなに多かったと。別に土屋・深田の二人が困ってたんじゃなくて、みんな困ってたんだと。みんな、何とかしたいと思ってたんだという、その情熱がやっぱり、継続力になったんだと思います。だから、状況論を論じ続ける運動体であって欲しいなと。実際に、実利を勝ち取る組織体であるってことが、もちろん重要なんですけど…。やっぱり諏訪さんがおっしゃった様に、言葉を磨きつつ状況論を論じ続けるということが、とても重要じゃないかと思いました。
土屋:ありがとうございました。とても貴重な言葉を戴いて。まさに状況論・メッセージを発し続けている…やっぱメッセージを、分かる形できちっと外に出していく。それがやっぱり、やってきて良かったなぁ、と。
深田:それは意識的にやってきたことですからね。
土屋:良かったと思います。で、あの、そろそろ時間になったので、これで終わりにしたいと思うんですけど、ちょっと反省…反省というか、あんなこと言わなきゃ良かったというか、自分がなんか愚痴みたいな小さいことを言ったのを、ちょっと今、反省してますけど…。(会場爆笑)
ボランティアでやってるのは当然、代表のこの2人だけじゃなくて、今日の準備してくれた色んなスタッフの人がいて、映画鍋2百何名いますけど、いつも毎月運営ミーティングに10〜20人の人達が集まってくれて、その人達が自発的にボランティアで動いてくれてるので、(それで)これが今成り立ってるということを、ちょっと付け加えておきたいなと思いました。(会場:拍手)ありがとうございます。
この後、打上げがあります。入会の受付を後ろでやってます。ネットからでも簡単に入会受付が出来ます。次回の鍋講座はまだ決まってませんが、近日中にネットとかで告知すると思いますので、ぜひご参加下さい。Twitterとかで情報を流します。ということで、長々と、ちょっと稚拙な進行だったかも知れませんが、今日は、こちら側とすれば褒めて頂いたりして、やる気が増して良かったっていう…。

深田:そうですね。ありがとうございました。
土屋:ということで、今日はこれで終わりにしたいと思います。どうも皆さん、ありがとうございました。
【企画】藤岡朝子【採録】山岡瑞子【メインビジュアルデザイン】鈴木規子
【年表・資料作成】藤岡朝子・舩橋淳【スライド作成】谷渕新吾
【写真撮影】田島瑠采奈・植山英美・山岡瑞子
※当日の記録動画です。
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