ホーム > レポート > 第1部『映画はどこでもつくれる!か?〜地方で映画を作るわけ〜』 レポート

第1部『映画はどこでもつくれる!か?〜地方で映画を作るわけ〜』 レポート


地域から次世代映画を考える:制作者の視点、上映者の視点
第1部 映画はどこでもつくれる!か? 〜地方で映画を作るわけ〜
第2部 関西次世代映画ショーケース
2018年1月27日(土) 
会場:京都府京都文化博物館

【第1部 映画はどこでもつくれる!か? 〜地方で映画を作るわけ〜】


日本の映画業界は“人材・情報・資金“が東京に一極集中している。その弊害は、“多様な価値観を有した映画が育まれる環境“を阻害している点にある。この状況を、地方在住の作家はどう捉えているのだろう。そもそも、なぜ彼らは地方で映画を作るのか?
福祉作業所職員、銀行員、ゲストハウス&カフェ経営、劇場スタッフなど、多様なライフスタイルの中で映画を作り続ける地方在住の監督たちの交流から、地方で映画を作ることの意義や課題を探りつつ、具体的な活路を見出していく。
【ゲスト】
酒井健宏(名古屋):1977年、愛知県出身。名古屋市在住。大学・専門学校にて非常勤講師として映画史・映像理論を教えるかたわら、映像作家として作品制作に携わる。『右にミナト、左にヘイワ。』監督・脚本。
 
佐藤零郎(大阪):1981年、京都生まれ。映画監督佐藤真に師事し、ドキュメンタリーを学ぶ。2017年16mmフィルムによる人情喜劇『月夜釜合戦』監督。「映画と社会変革」を自身の創作活動のテーマとしている。
 
香西志帆(香川):香川県出身。百十四銀行勤務。長編映画初監督作品『猫と電車-ねことでんしゃ-』(主演 篠原ともえ)が、地元ミニシアターで、観客動員数記録を出す。長編映画2作目『恋とオンチの方程式』(主演 夏菜)
 
塩崎祥平(奈良):奈良県出身。高校卒業後、渡米。映画製作とメディアを学ぶ。長編初監督作品『茜色の約束』は、関西で2万人を動員。現在、長編二作目『かぞくわり』(出演:陽月華、小日向文世、竹下景子)を制作中。ゲストハウスとカフェを経営。
司会:歌川達人(NPO法人独立映画鍋会員、ドキュメンタリー映画監督)

早朝から、小雪が舞い、時には吹雪く、冬の京都で、独立映画鍋の東京以外の場所で初めてのシンポジウムが開催されました。シンポジウムについては、多くのメディアに取り上げていただけましたので、目にしてくださった方も、いらっしゃるかと思います。
独立映画鍋会員で、東京在住の私から見た、当日の様子を簡単にですが、レポートさせていただきます。
   
2016年秋に、私は、今回と同じ会場で、映画に関するトークイベントに参加していました。ゲストは、東京から来た著名な方たちでしたが、平日の午後ということもあり、座席は、3割くらい、埋まっていました。開催当日、夜行バスで、東京から京都に到着しましたが、お客さんがどの位、来てくださるのか、ドキドキしながら、会場に向かいました。
シンポジウムの前に、ゲストの監督の3本の短編・中編・長編(合計154分)と、公開中の長編の予告編の上映があるという盛りだくさんの内容でしたが、客席は、上映開始前から3割~4割程、埋まっていました。上映が進むうちにも、観客は増え、2部の始まる頃には、立ち見も出る状況でした。公式には、延べ400名の参加者がいらっしゃったとのことです。
    
どのような方たちが、来てくれているのかと、会場を見渡したり、後でSNSをのぞいてみたりした所、関西近郊で映画関係の仕事をされている方、映画の作り手、主催の立命館大学の学生さん、映画の上映に関わっている方や観客の方、ゲストのファンといった様子でした。京都出身で、大阪で映画を撮っている佐藤零郎さんは、零郎ちゃんとSNSで、呼んでいる方もいらっしゃって、地元の監督を前作から、今の作品まで見守るという感覚が、もしかしたら、東京よりも強いのかなという気が少ししました。
    

上映作品の『右にミナト、左にヘイワ。』(酒井健宏監督)と、『しまこと小豆島』(香西志帆監督)は、地域をPRする色が強い映画のように感じました。前者は、以前、その地域で実際にあった災害を注意喚起する作品で、後者は、都会から島を訪れた少女が、島の名所を巡るストーリーにあわせて、ロケーションである島の美しい映像が綴られる作品でした。それぞれ、ロケーションである地域から、お金をいただいて作った作品とのことでした。
『茜色の約束 サンバ do 金魚』(塩崎祥平監督)は、その地域の伝統産業や場所を積極的に取り入れた作品ですが、そこから、一歩進んでご自身の色を出されているように感じました。こちらの映画は、完成後に、市から宣伝の応援を受けたけれど、地域行政からのお金は、いただいていないということでした。
現在、劇場公開中ということで、予告編のみ上映された『月夜釜合戦』(佐藤零郎監督)は、大阪・釜ヶ崎で撮影。16mmで、撮影・編集・公開までを行っているということで、予告編からもこだわりが伝わってきました。製作費は、映画に因んだ手ぬぐいを売ったお金をあてる等、ユニーク方法を取られていました。
映画上映後、最初に佐藤監督が、なぜ地域で、大阪の釜ヶ崎で映画を撮るのか、なぜインディペンデントで映画を撮るのか、それは、労働ではなく、やらなければならない仕事であるということを熱く語ってくれました。
塩崎監督は、東京で映画を作っていたこと、出身地の奈良で『茜色の約束 サンバ do 金魚』を撮って移り住んだことにより、映画を通して出会った方々から仕事を請けるようになり、尚且つ、ゲストハウスとカフェを始めたきっかけを話してくれました。東京にずっといて、映画だけ地元で作って東京に帰るということでは成立しなかったという言葉に重みを感じました。
香西監督は、映画を撮って欲しい地元香川の行政や企業から、資金をもらいながらも、自らは、副業禁止の銀行で働いている為、無報酬で撮り続けていて、撮れば撮る程、赤字になっていく現状、について、語ってくださいました。
最後に、映画鍋会員であり、名古屋市在住の酒井監督。昔から、多様な映画の形というのがあって欲しいと考えていて、名古屋にいながら、どうやったら、映画が作ることができるのかを考えていった。大学院で映画史について学んだり、名古屋シネマテークでバイトをしたりして、映画好きの人たちと出会い、コミュニティを作っていった。その先に、自分自身も作り手として映画に係わるようになった過程を話されました。

その後、司会から、4人の監督へ「インディペンデント映画の定義」について、質問がありました。これは、インディペンデント映画の定義を明らかにすることによって、政府に助成を訴えかけていくこと、一般の人にわかりやすく説明して、理解してもらい広めていくという意図がありました。それに加えて、司会者は、地域で映画を作っている人たちの考えを聞きたいということでした。
塩崎監督が、地域で映画を作るということは「作り手の実人生と切り離せない映画」と確信を持って語った後に、酒井監督は「地方在住者が地方で作る映画でインディペンデントでは無い映画は存在するのか?」と問いかけます。インディペンデントっていう言葉が好きではないという佐藤監督は、「なんでもいい」という言葉と共に、インディペンデント映画は、労働を優先すると成立しない、やらなければならない仕事。続いて、香西監督から、自分の作っている映画の半分以上は、行政から依頼を受けて作っている。自分は無報酬だし、地元の為と思って作っているが、その映画はインディペンデント映画になるのかどうか?という問いかけがありました。
それを受けて、それぞれ、どういう形で、お金を集めたりして作っているのかという話に展開。個人的に興味深かったのは、塩崎監督の日本でもまだ、実例が少ないLLP(有限責任事業組合)による映画製作の話でした。映画製作者だけでなく、地元の19人程の飲食店、工務店、カウンセラー、住職さんなども巻き込んで作っていく形は、可能性を感じさせられましたが、実情は、人が集まると大変なこともいっぱいあるとのこと。
テーマは、プロデューサーの不在、地元以外への配給の難しさへと続きました。予定時間をオーバーし、最後に、今後に繋げていく為の意見を、1人ずつ話していただきました。
塩崎監督からは、地域映画ファンドと、脚本開発・脚本教育の必要性。佐藤監督は、映画製作者への家賃補助や減税と、使われなくなった機材の共有化。酒井監督からは、東京から始まって各地にいく上映の流れ、配給についての新たな仕組みを考えていきたいという話。最後に、香西監督から、地方銀行が既にファンドを立ち上げていること、地方のTV局に償却期間が過ぎた高い機材がある、脚本の重要さについての話が出ました。加えて、映画を作りたいお金を持っている方は、たくさんいるので、繋がる機会があったらいいと思うという、明るい話で、第1部は終了しました。

終了後に、ゲストの1人から、同じ立場の人の存在、地方で映画を撮っている方とお話するだけで、ほっとするという言葉をいただきました。その言葉が、地域で映画を撮り続けることの大変さを表しているように、私には思えました。今回のシンポジウムは、スタートであり、今後、どのような場をお互いに作っていくことができるのか?繋がっていけるのか?が、最も重要だと思いました。
最後に、今回のシンポジウムの記録動画は、独立映画鍋会員限定公開となっています。実際に、当日、どのような話が飛び出したのか、地域在住のゲストたちの熱い生の声を聞きたいと思われた方は、この機会に会員になって、動画をご覧いただくことをお薦めいたします!入会方法は、独立映画鍋公式ページ( http://eiganabe.net/join )で、ご確認ください!
【レポート:大原とき緒(監督、経理)】
© 2020 独立映画鍋 All rights reserved.