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TIFF×独立映画鍋連携シンポジウム『日本映画の海外販路拡大戦略』レポート


日時:2015年10月29日(木)19:00〜21:00
会場:六本木ヒルズ ハリウッドビューティープラザ4F
ゲスト:
長井延裕(クールジャパン機構)
高松美由紀((株)Free Stone Productions代表)
アダム・トレル(Third Window Films社長)
ファシリテーター:伊達浩太朗(独立映画鍋理事)

 一昨年に引き続き、昨年の映画鍋とTIFF連携シンポジウムは、『日本映画の海外販路拡大戦略』と題して、10月29日に六本木ヒルズ・ハリウッド・ビューティー・プラザで開催されました。講師3名と、来場者70名、とても意味あるシンポジウムでした。シンポジウムの内容の詳細は、『月刊 知財ぷりずむ』誌1月号(1/10発行)に掲載されますので、もし詳細が気になる方は、そちらを手にとって頂ければ幸いです。
 シンポジウムは(株)Free Stone Productions代表取締役の高松美由紀さん、映画配給会社Third Window Films社長のアダム・トレルさん、クールジャパン機構の長井さんの順に、それぞれ15分間のプレゼンから始まりました。

 高松さんのプレゼンは最初から、はっきり日本映画界に不足しているものの指摘がされることから始まりました。「今の日本映画では海外セールスだけではたちゆかない現実。日本映画で売り上げを立てるのはまず不可能。」そして、「いかに日本映画を世界にプロモーションしていかねばならないか、という広報的意識が日本映画界に欠如しているのではないか」との考えから、国内の宣伝、海外の広報両方やっているという結果、高松さんは映画の萬屋になったと、大手映画会社の国際部+海外展開のアドバイスをしている理由を述べられていました。もはや「不足」でなく「欠如」なのですね。高松さんのクライアントのルボット氏も顔を出して下さって、黒澤清監督の『贖罪』がフランスで上映された日本映画の中で歴代5位の記録的ヒットになったことで、このように日本映画を一生懸命やっている人がいることと、若い人の人口が減っていることは、リアルにマーケットの減少を意味しているということで、海外マーケットの重要性を語られ、アダムさんのプレゼンに移りました。

 アダムさんは10年前から『下妻物語』や『嫌われ松子の一生』などをイギリスで配給、また、韓国映画も扱い、イギリスでの配給のノウハウを得て、3年前から日本に移り、プロデュースや海外セールス、園子温監督の『希望の国』の製作委員会に入っていた経験から、「この10〜13年、配給の仕事で色々観たけど、日本映画はいい映画を見つけるのが難しい。レベルがどんどん下がってる。韓国映画は作り方だけでなく、海外のプロモーションも凄くレベルが高い。多分日本でリクープできるから日本は海外のこと考えてないと思う。色々ないい映画を海外に売ってない。凄いビックリしてる。」という非常に率直な指摘がされました。韓国のKOFIC(韓国映画振興委員会:KOREAN FILM COUNCIL)がとても頑張っていて、「韓国の会社は凄くお洒落なプレスキットにお洒落なポスター、自主映画でも映像が凄く綺麗。現在はアジア映画の配給が難しくなっているので、売り易いことが大事。つまり、いいトレーラーやポスターなど、綺麗なプロモーション・マテリアルがあれば、タワレコやHMVなどのリテーラーに売り易い」と。日本映画の問題点は、それが大手でも自主でも関係なく、「ダサいポスターと全部説明しちゃうダメなトレーラー。新人のプロモーションのために映画に関係ない音楽が入っていたり。配給も大変だから新しく作り直すのも、お金も時間もかかるからもうやりたくない。」そして、高松さんとも指摘されたのは、日本のプレスキットは英語が凄く下手で分厚過ぎて要らない情報が多いこと。必要なのはジャンル・製作年・キャスト・スタッフの名前・ストーリーだけで良い。リテーラーに売る時は、お洒落ポスターと面白いストーリー、主要キャストの以前出ていた作品情報など、パワポ一枚でいいそうです。また、人気のある日本人監督には全員全部海外のセールスエージェントがいて、映画のクオリティと同様、海外のセールス・プロモーションやネットワークが大事であり、高松さんも、もしクライアントがカンヌやベネチアを目標にしているなら、日本人が海外でロビー活動しても限界があるため、海外のセールス・カンパニーをお勧めしているそうです。一本でも多く日本映画が上に上がり、広がることで全体も良くなれば、との考えだそうです。

 日本映画界の海外セールスにおいての問題点の数々が具体的に指摘された後、クールジャパン機構の長井さんのプレゼンに移りました。クールジャパン機構とは官民投資ファンドで、その狙いは、日本の文化やライフスタイルに付加価値をつけ、日本の経済成長に繋げること。2034年までの限定の会社で、2020年のオリンピックで日本への関心が高まるのは必至なので、日本に来ていただく循環を作る、だそうです。日本のエンタメの起爆力はまだまだ海外に受け入れられると思うそう。海外展開を考える上で必要だと思われることの分析などを語られました。
 ディスカッションに移り、プレゼンに引き続き、ここでも率直な意見が交わされました。高松さんから、日本の映画の売れない理由の1番目はマテリアルが揃わないこと、と指摘されました。綺麗な写真、レイヤーになっているポスター・データ、映画の情報など、海外スタンダードの基本的なことが揃わないそうです。そこには芸能事務所の政治的なことは海外セールスには要らない・関係ない、と。2番目の理由は契約の過程が異様に長いこと。契約書を作るのに1〜2年かかり、買ってくれるのは半年でも1年でも待ってくれる我慢強い人だけで、他の人たちは契約破棄か配給時期を逃すくらいならフィリピンの映画買った方がいい、となってしまう例が多いそうです。それにはアダムさんも、「いつも遅い」と指摘。「クールジャパンでもJ-LOP(ジャパン・コンテンツ ローカライズ&プロモーション支援助成金)も、始める前に自主の小さい会社からもちゃんとどうやってこのお金使おうとか色んな人に色々訊いてみて方針を決めたら良かったのに、本当に大きい会社の考え方のみ。クールジャパンも韓国のKOFICみたいに若いスタッフがもっといたらいいと思う。」。更に、「J-LOPは何でも時間がかかり過ぎる。本当にみんな疲れてる。KOFICや中国の方が簡単で速い。日本と違うのは自主映画もサポートしている点。韓国映画をイギリスで配給した時、凄いサポートが効いた。KOFICは申請が凄い簡単だから。日本映画はいい映画いっぱいあるけど、お金がかかってる映画が一番ダサく見える。日本は金かければかけるほど安っぽく見え、レベルが低くなる。大きい映画をイギリスに持っていくと「日本、ダサい映画作ってるな」って思われてる。韓国は自主映画までサポートしているから映画の多様性が伝わる。日本映画については、イギリス人なのに恥ずかしくなる。」この、実体験に基づいた発言は、私にはとても重く響きました。長井さんが海外マーケットへの日本の対応の遅さの根本的な原因は、日本は世界第2位の芳醇なマーケットだということで特に外に売る必要がないこと。少子化に向けての準備が出来てないこと。韓国のレポートにもあるが、韓流の80%は日本で稼いでいること。日本で相当稼いだ上でアジアのマーケットに行っていること。映画は音楽の著作権の関係でプロモーション・マテリアルの調整の時間でどうしても時間がかかってしまうこと、などを挙げておられました。

 また、高松さんから、「映画は水物なのでトレンドが常に変わる。韓国映画はシーズンによって常に新しいものを出している。日本はその速さに付いて行けていません。だから毎回同じものをプロデューサーが作る。毎回私たちがプレゼンしなきゃいけないんだけど、新しさが何もない。そんな速さについていかないと日本映画は売れないし、厳しい。」との指摘が入ると、アダムさんから「テーマのトレンドだけでなく、例えばVideo on Demandを海外はみんなやってるけど、日本はそんなにやってない。日本の映画の作り方では、制作委員会の問題。大きい映画は最初テレビドラマから始まってそれが映画になるんだけど、映画の最初の30分は説明だったり。そんな問題がたくさんある。映画はテレビからでなくオリジナルの映画で売ればいい。何で園子温が売れるかはオリジナルだから面白い。日本の制作委員会はリスクが欲しくないからオリジナル監督とか面白い監督とかは使ってない。サポートしてない。安全志向過ぎる。だからいいオリジナル映画が海外で観られない。」と続きました。
 映画祭への出品の仕方についてもアダムさんからアドバイス頂きました。「カンヌ、ベルリン、ベネチア以外にも映画祭は色々あり、どうやって自分の映画、自主映画でも海外に行けるかゆっくり考えた方がいい。例えば自主映画でも今後、新作を作りたかったら最初から海外に名前を作った方がいい。多くの人は決めた大きい映画祭ひとつしか考えておらず、一つ決めたらたらその後考えるのを止めてしまう。もったいない。ある監督はベルリン映画祭のジェネレーションで上映されたら、それにフォーカスしすぎて他の映画祭に行けなくて。海外に行きたかったら映画撮る前に全部考えてマテリアル集めて、撮ったすぐ後に動ける半年前から1年後のスケジュール作っておいた方がいい。映画が出来上がってからエージェントに訊いても遅い。撮っている間に日本での公開はここだから、ワールドプレミアはここで、ここで出来なかったらここかここ、とかヨーロピアンプレミア、アジアンプレミアはここで、とか。ベルリン行けなかったらNippon connectionとかミュニック映画祭もあるので」とのことでした。
 高松さんから、韓国映画より10倍高くてアジアに売れない問題も指摘されました。今売っておいた方が5〜10年後花開きますよ、と言っても、目の前の金額に縛られてしまうそうです。
 質疑応答では、ドキュメンタリーの海外市場についての質問が出ました。高松さんは、「日本のドキュメンタリーと、ヨーロッパのドキュメンタリーとアメリカのドキュメンタリーは作り方が全然違う。日本のドキュメンタリーは独特で、皆さん見慣れていないので海外のマーケットには当てはまらない。いわゆるアメリカのドキュメンタリーは『ザ・コーブ』みたいにダダダダダーンとエンターテイメント性を持って進んでいくのがドキュメンタリー。日本の場合は対話形式で進んでいく。ヨーロッパは俯瞰で物事をお客さんが考えさせられるように撮られているドキュメンタリーが結構多いような感じがする。お客さんが違うので、日本のドキュメンタリーを彼らに売るというのは結構至難の技。ただ、ドキュメンタリーってデジタル配信にとても適しており、ベルギーで本当に低予算で作られたツーリングのドキュメンタリーで、どこにも売れないからと、うちを通して世界のiTunesに出した時、結果としてなぜかニュージーランドのiTunesだけでリクープした。なぜだろう?と調べたんですけど、ニュージーランドではすごい自転車文化が流行っていた。ニッチなマーケットがあり、それに到達するためには、決して劇場で上映することだけが大事じゃないのが、今のマーケット。メリットでもありデメリットでもあるのだけど、ドキュメンタリーやられているなら、思い切ってデジタルのマーケットの可能性も考えていいと思います。」と言われました。

 このシンポジウムでは、日本映画全体の海外販路戦略を考える上で、現在の問題点と未来に向けての改善点が、海外セールスの現場で常に問題に直面している高松さん、アダムさんから如実に照らし出されたと感じました。海外スタンダードを学び、必要最低限の情報を載せたお洒落なプレスキットを作り、説明的でない印象的なトレーラーを作り、綺麗な画質・画像のポスターやプロモーション・マテリアルを作り、助成金は申請しやすく海外での配給時期を逃さないために展開を急ぐようにし、韓国映画のように、まずは日本映画に親しんでもらうために戦略的に売るための値段設定をする、トレンドをリサーチして新しいものを出していく、映画撮る前からマテリアル集めて、完成後、すぐ動けるように半年前から1年後のスケジュール作る・・・。クールジャパン機構などの国を背負ったコンテンツ海外発信のための組織や、大規模作品にしか出来ないこともありますが、独立系小規模作品にも当てはまる自助努力すべきことに改めて警鐘を鳴らして頂き、身が引き締まる思いがしました。
(文責:山岡 瑞子)
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