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鍋講座特別編 in 東京国際映画祭『インディペンデントにとっての新しい出口戦略』レポート

東京国際映画祭 独立映画鍋共催企画
フィルムメーキングサバイバル講座「映画は完成したけれど」
第1回講座 インディペンデントにとっての新しい出口戦略 レポート

日時:2014年10月26日 19:00~21:00
場所:TOHOシネマズ日本橋
【出演者】
大山義人(AEON CINEMA)
栗山宗大(映画『ふるさとがえり』)
根本浩史(T-MEDIAホールディングス)
土屋豊(映画監督/独立映画鍋共同代表)
【ファシリテーター】
伊達浩太朗(映画プロデューサー/独立映画鍋理事)

前年(2013年)の東京国際映画祭(TIFF)で、独立映画鍋はクラウドファンディング・リアルというイベントを企画、運営しました。今年のTIFFでも、映画鍋で何かイベントをやりたいね…というところから、今回の企画がスタートしました。
当初は、以前から独立映画鍋の中で課題となっていた、独立映画と大手商業映画の人材交流というコンセプトで企画を立てていました。しかし、何回かTIFF側と打ち合わせを重ねる中で、すでに企画が先行していた2つの講座と併せて、主に若いフィルムメーカーを対象にした3回連続講座の中の1つとして企画できないか…という提案があり、その方向に企画をシフトさせていきました。他の2つの講座は「DCP」「海外」と決まっていましたので、映画鍋としては、映画の上映を中心とした出口戦略を考えようというところで、話をまとめていきました。
今回のイベントの舞台はTOHOシネマズ日本橋。普段は映画を上映している場所で、しかもこの劇場の中で2番目に大きなスクリーンでの開催となりました。ちなみに、私は当日、PCのオペレーションを担当していたのですが、いつもの鍋講座とは異なり、TOHOシネマズの大スクリーンに自分のノートPCの画面を映し出すというのは、なかなか興奮するものがあります。
私たちが担当した講座が、この連続講座の初回という事もあり、冒頭でTIFFを運営しているユニ・ジャパンの西村さんから挨拶がありました。
続いて、司会の伊達さんから登壇者の紹介があり、土屋監督及び3名のゲストの方々から、簡単なプレゼンテーションをして頂きました。この3人のゲストが決まるまでにも、紆余曲折あったのですが…結果的に、映画館、ネット映像配信、そして自主上映と、バランスの取れた構成になったと思います。

プレゼンテーション
まず、土屋さんから、独立映画鍋と今回の講座の企画主旨に関する簡単な説明がありました。TIFF側で企画した、今回の連続講座の主旨は、「日本におけるインディペンデント映画の制作環境は、デジタル化の恩恵もあり、状況的には良くなってきているように見えるが、映画が完成した後はどうなのか?」というところにあるのですが、土屋さんによれば、「独立映画の状況は一見して良くも見えず、大問題を抱えている」という所から、少しでもこの状況を改善できないかと思い、独立映画鍋はスタートしました…という身も蓋もない話から始まりました。
鍋講座などを通じてメンバー間で情報を共有する事で問題点を分かち合い、解決方法を見つけていくという独立映画鍋の活動方針などについて説明があった後、独立映画の現在の状況を表す例として土屋さんが挙げたのが、自身の作品である『タリウム少女の毒殺日記』でした。この作品の興行結果については、鍋講座vol.16で明らかにしており、詳細なレポートも公開していますので、ここでは割愛しますが、TIFFの受賞歴があり、またロッテルダム映画祭などにも正式招待された、国際的な評価を得ている作品であっても、興行的には400万円の製作費すら回収できていない…という現実を伝える事は、今回の講座の対象としている若いフィルムメーカーに対して、何らかの危機感や問題意識を持たせるには十分な効果があったと思います。
土屋さん自身も、どのようにして観客動員数を増やし、製作費をリクープしていけば良いのか分からない中で、インディペンデント映画の出口戦略にはどのようなものがあるのか、今日のゲストのみなさんの話を伺いたいと思っている…と話を締めくくりました。

その後はTOHOシネマズの大スクリーンにプレゼン資料を映し出しながら、本日のゲスト3名それぞれが行っている取り組みについて、各10分程度の持ち時間で、簡単に紹介をして頂きました。
最初に、映画館の代表として、国内最大級のシネコンであるイオンエンターテイメント(イオンシネマの運営会社)の大山さんからプレゼンテーションをして頂きました。今回の会場となっているTOHOシネマズなどとは対照的に郊外型、それもショッピングセンターとの併設という形で全国に展開するイオンシネマには、これまでの主流であった映画会社を母体とするシネコンとは異なる方法論を持っているだろう…というのが、映画鍋として期待するところです。
大山さんの話は、映画上映のデジタル化の影響という事からスタートしました。デジタル化が進行した事によって、映画館のスクリーンで、様々な映像コンテンツを鑑賞する事が可能になりました。ライブ・ビューイングで音楽やスポーツの中継、PCを接続すれば会社の会議も行える…映画館が映画だけのものではなくなっているという状況が生まれているそうです。
こういった状況の変化がある一方で、映画館の主たるコンテンツが映画である事に変わりはないわけですが、デジタル化の恩恵は、興行者が映像の企画に参入できるようになったという事にも表れているようです。その一例として、イオンシネマでは『沖縄美ら海水族館~海からのメッセージ~』『ぼくらは動物探険隊』などの幼児向けの作品を独自に制作、上映しています。
これらの作品は、イオンシネマにとって、欲しいターゲット、抜けているターゲット、取りやすいターゲットはどこなのか…という考えから生まれたそうです。ショッピングセンターの中にあるという立地から、ファミリー需要が大きい事は容易に想像できますが、子供向けの一般映画というのは、夏休みや冬休みなどに集中しており、それ以外の時期にはコンテンツが不足するという状況があります。また、小学生以上になると、塾などで忙しくなり、平日の動員は見込めないという事もあって、それよりも下の幼児をターゲットにした方が、映画館デビューという意味も含めて来てもらえるチャンスがあると考えたそうです。
こういう作品では、ショッピングセンターとのコラボレーションなども重要なため、そのマーケティング的な面も含めて、映画館が主体的に宣伝なども行っていく必要があるだろうという事から、独自の展開を行っているようです。
そしてもう1つ、今年から始まった企画として、HAG(Handmade Animation GrandPrix)というものが紹介されました。日本が誇るアニメーション文化の振興において、特にマネタイズが難しいショートアニメーションのクリエイターに対して、映画館で上映されるマナームービーや企業広告などの仕事を紹介する事で、作品を公開できる場所を提供するとともに、商業的な支援を行っていくという目的で始まった企画のようです。アニメーションという限定された分野ではありますが、クリエイターの活動領域を広げるという意味では、映像作品全般に応用できそうな企画であり、今後の展開に注目したいところです。

2番目にプレゼンテーションをしたのは、映画『ふるさとがえり』の栗山プロデューサーです。この作品は劇場公開がほとんどされていないため、映画鍋の事務局でも知っている人は少なかったのですが、自主上映を中心に全国1,000カ所以上で上映している、インディペンデントの劇映画としては異例と言って良いヒット作です。
栗山さんは、ものがたり法人FireWorksという地域密着、市民参加にこだわった映画作りをしている、少し風変わりな映像制作会社に所属しています。『ふるさとがえり』も元々、FireWorksが作りたくて企画したわけではなく、岐阜県恵那市からの依頼によって製作がスタートした作品です。
恵那市というのは、市町村合併によって13の地区が合併して生まれた56,000人の小さな都市で、地域としては1つになったけど、住民はまだ1つにまとまれていないという事から、地域住民の心の合併をしたいという事から、映画製作に思い至ったようです。
しかし、恵那市でも具体的な企画があるわけでもなく、最初のうちは「映画ができたら良いですね~」ぐらいのノリで、現地に行ってお酒を飲んだり、観光したりしながら、現地の人たちと交流を重ね、少しずつ形になっていった映画だそうです。
最初に企画を持ちかけられたのが2005年の夏で、それから約6年後の2011年春に映画が完成しましたが、その時間の多くは資金集めに割かれたようです。税金や助成金などの公的資金に頼らず、1口1000円で数千万円の協賛金を集めて作られたそうです。しかし、これは単に資金を集めるためだけの時間ではなく、本当の意味で市民の気持ちを1つにまとめ、心の合併をするための期間でもあったと言います。つまり、この作品の目的は、あくまでも心の合併が主であり、映画製作はそのための手段であったという事なのです。
こういった映画製作の経緯から、作品の上映は地元を中心に考えられており、広く公開するような事は特に考えられていませんでした。しかし、この映画の事を聞きつけ、また実際に鑑賞した近隣の地域の人たちから自分の地域でも上映したいという声が広がり、恵那市を中心にして上映地域が拡大していきました。この背景には、完成した作品自体の魅力ももちろんですが、それ以上に、この映画製作によって心の合併がなされたという、もう1つのストーリーが注目された事が大きく影響しているようです。
『ふるさとがえり』という作品は、自分の住む地域やふるさとを再認識させるキッカケを与える映画であり、それが北海道であっても、沖縄の離島であっても、自分たちの事に置き換えて観る事ができる映画であるという事が言えそうです。そして上映後には、自分たちの地域における心の交流と言う、普段は話しづらいような話ができる、ある種のコミュニケーションツール、コミュニケーションの媒介として機能しているようです。
このような広がり方というのは、ドキュメンタリーでは割とよく聞きますが、劇映画では珍しいのではないでしょうか。やはり、映画製作の背景に魅力的なストーリーが存在した事、そして単なるご当地映画ではなく、作品自体に心の合併というテーマ性を与えた事が、これだけのヒットに繋がった要因と言えそうです。
しかし栗山さんとしては、この作品のヒットは自分たちが意図したものではなく、たまたま、現代の人たちが持つニーズとマッチした結果…という見方をしているようです。事実、この後に制作した何本かの作品については、『ふるさとがえり』のようなヒットには至っておらず、明確な法則性は見出せていません。
ですが、インディペンデント映画の出口として、劇場公開しか選択肢を持っていなかった人たちにとっては、新たな可能性を知る良い機会になったのではないでしょうか。冒頭にあった土屋さんの話(アップリンクで13週公開して観客動員数3,000人弱)と併せて考えても、自主上映の可能性に期待が高まるのは、私だけではないと思います。

3番目のゲストは、映像配信サービス「TSUTAYA TV」を運営するT-MEDIAホールディングスの根本さんです。TSUTAYA TVはレンタルDVD最大手であるTSUTAYAのオンライン映像配信サービスになります。T-MEDIAホールディングスでは、このTSUTAYA TVの他にもネット宅配レンタルのTSUTAYA DISCAS音楽配信コミックレンタルネット通販など様々な事業を展開しています。
映画鍋の目論見としては、インディペンデント映画の出口としてオンラインの動画映像配信の可能性というものを考えて今回のゲストのオファーを出したのですが、今回の根本さんの話を伺って、意外にもネット宅配レンタルのTSUTAYA DISCASにも可能性があるのではないか…と気付かされます。TSUTAYA DISCASには、発売されている作品はをすべて網羅し取り扱ようという方針があるらしく、映像作品だけで20万の登録があるそうです。
TSUTAYA TVとTSUTAYA DISCASには、オンライン映像配信かネット宅配かという視聴手段の違いはありますが、WEBサイトから作品を選択するという共通のプラットフォームがあります。根本さんによれば、これまで映画は劇場で公開してから他のメディアに展開するというのが一般的でしたが、今後はインターネットが映像作品と出会う入り口となり、そこでの反応によって劇場公開や他のメディアに展開していく方法もマーケットの活性化には有効ではないかと考えているようです。
また、現在5000万人以上がいるT会員や20万の登録作品を持つTSUTAYA DISCASの情報を元にして、お客様の好みに合わせた最新のライフスタイルニュース、映画、音楽、書籍などのエンタテインメント情報やライフスタイル情報が集まる新たなネットサービス「T-SITE」も開始したばかりですが、非常に力を入れているようです。ビッグデータの活用が叫ばれている中、日本はアメリカなどに比べると、かなり出遅れているように感じますが、TSUTAYAのこの動きには期待して良いのではないでしょうか。特にフィルムメーカーの立場からは、この後のディスカッションでも話題に上がる、作品とユーザーとのマッチングという部分に期待が高まると思います。

ディスカッション
続いて、伊達さんの進行により、ゲストの3名に土屋監督を交えた4名によるディスカッションとなりました。まず最初に、土屋さんから他のゲストの方々に対して、先ほどのプレゼンテーションで感じた事を率直に質問して、その内容を補完するような時間がありました。
大山さんが先ほどお話しされた、イオンシネマで企画している子供向けの作品は、幼児でも集中して鑑賞できる事を考慮して、45分~1時間程度の作品になっています。これには、1日にできるだけ多くの作品を上映したい、一般的な2時間程度の映画の隙間を埋めるコンテンツが欲しいといった劇場側の論理も働いている訳ですが、1時間弱の映像作品のニーズ、適性がどこにあるか…と考えた時に、幼児というターゲットが浮かんでくるという、逆説的な考え方もあるようです。
また、イオンシネマのようなローカル型の映画館の場合、それほど商圏が広くないため、作品の宣伝、告知をどのように行っていくかという課題があります。そういう観点からも、ターゲットが狭い方が効率的に情報を伝えられるというメリットがあるようです。
都心のシネコンは多ジャンルの作品を幅広い客層に対して上映していますが、ローカルの映画館では、興行(数字)的なリスクの問題から、多様性は限られてしまうという現状があります。しかし大山さんは、そこにこそビジネスチャンスがあるのではないか…という前向きな考え方も持っているようです。
伊達さんからは、TSUTAYA DISCASの方がネットだけで完結して在庫を持つ必要のないTSUTAYA TVよりも抱えている作品数が多い事に対する疑問が投げかけられました。
これに対しては、TSUTAYA TVも含めたインターネットによる映像配信サービスがまだ過渡期にあり、権利処理などの問題もあるため、現状では古くから事業を行っているTSUTAYA DISCASの方が作品数が多いという回答を根本さんから頂きました。TSUTAYA DISCASはネット宅配という付加価値はあるものの、旧来のレンタルビデオの延長線上にあるサービスですから、それと比較した場合、オンライン映像配信が社会に浸透するまでには、まだ時間が必要なようです。
根本さんによると、ユーザーは刺激を受けないと映画を観ない…という感覚があるようです。たとえば、テレビで何か映画を放映すると、その作品が全国のTSUTAYAで貸し出し中になるという現象があります。これは別に、テレビで鑑賞した人が、改めて観るという事ではなく、新聞のテレビ欄で情報を知ったり、テレビで観た人から話を聞いたりという形で刺激を受ける事で、その映画を観たい…と思う人が大勢いるという事です。しかし、その人たちは、その映画を観たいという事に普段は気付いておらず、外部からの刺激によって、その映画を観たいという事に気付かされる…という事ですね。もちろん、これは一例に過ぎませんが、どういう形でユーザーに刺激を与えるかというのは、TSUTAYA TVの重要な課題と考えられているようです。特にネット映像配信の場合、刺激を受けたら(ネット環境さえあれば)すぐに鑑賞できるという利点がありますから、より重要度は高いと言えるのでしょう。
アメリカなどでは、ネット映像配信がかなり進んでおり、最大手のネットフリックスに至っては、全米のインターネット回線のトラフィックにおける半分を占めるとまで言われているそうです。
アメリカの話が出たところで、話題は海外の上映環境の事に移りました。大山さんによると、海外の映画館の構成も日本と大きく変わらず、世界的な傾向としてシネコンが中心になってきているものの、単館系・アート系の映画も存在はしているようです。特に、アメリカではこの数年、ターゲットを富裕層に絞った、食事やシャンパンなどがオーダーできるハイエンドの劇場が増えてきているそうです。
また欧米では、午前中はほとんど客が入らず、閉館しているようなところも多いようで、そこら辺は日本以上に夜型に偏っているように感じました。

続けて、土屋さんから、『ふるさとがえり』の上映の経緯について質問がありました。自主上映を500回超えたあたりで、中部地方のTOHOシネマズから声が掛かり、そこから少しずつ広がり、全国で十数館まで拡大したそうです。
しかしシネコンでの上映は、あまりうまくはいかず、多い時でも40人行くかどうか…という状況だったそうです。一度、栗山さんがチケットを買って劇場に行った時には、自分を含めて観客が3人という虚しい状況があった…という件に、土屋さんは深く共感している様子でした。
栗山さんはこの経験から、劇場での公開を成功させるには、それなりの宣伝や社会への認知が必要であり、資本力がなければ成り立たないという事を実感したそうです。自分たちのように資本力のない会社の作品は、劇場公開に労力を掛ければ掛けるほど、体力がなくなっていくという感覚を持った…との事。もちろん、劇場で公開する事は箔や信頼に繋がるし、観客にとってのメリットもある一方で、小資本のプロダクションにとっては、経済的なデメリットの方が大きいようです。
これを受けて、土屋さんからも『タリウム少女の毒殺日記』の経験談が語られ、若干、しんみりした話が続きましたが、栗山さんによれば、シネコンという選択肢を持てる事自体が贅沢な悩みである…との事です。そもそも、そういった選択肢を持てないプロダクションが多い中で、自分たちはその土俵に乗っているという事には、十分な意味があるようです。シネコンなのか、単館(ミニシアター)なのか、自主上映なのか…という選択は、資本力や作品のターゲット、コンセプトなどを考え合わせて決定すべき問題であると言えそうです。
栗山さん自身、以前は、ミニシアターで上映し、国際映画祭に出品して賞を取って…というスキームしか考えていなかったそうです。しかし、そういう既定路線は、もう崩壊している…と栗山さんは言います。クリエイターが自ら販路を開拓し、上映の場を作って行かなくては生き残っていくのは難しい…と。「実績のある人から聞くと響く」とは土屋さんの言葉ですが、私もまったくその通りだと思います。映画の製作本数がどんどん増えている時代ですから、作品を公開する方法論も進化させていかないといけませんね。
この栗山さんの話に対して、T-MEDIAホールディングスの根本さんからもコメントがありました。世の中に『ふるさとがえり』の潜在的なファンはいるが、情報が届かないから気付いていない…これは、先ほどの根本さんの話にあった、ユーザーにどう刺激を与えるかという話に繋がります。マーケティングコストを膨大に掛けたところに客が集まるという不均衡が発生しているのであれば、いかにコストを掛けずに作品とユーザーをマッチングするかを考えなければいけない。それには、インターネットが非常に適している…という考えがあり、T-SITEは、そのためのプラットフォームになろうとしているようです。
再び栗山さんにバトンが移り、自主上映の具体的な話を伺う事ができました。
日本には、映画館がない市町村の方が圧倒的に多い。『ふるさとがえり』では、「上映会しませんか」という投げかけを東京以外に広く、しつこく行っており、まだ東京では勝負していない…と言います。
今までの上映地域には、映画を40年ぐらい観ていない人たちの村、人口500人ぐらいの山奥の村などもあったようです。そういう地域で上映会をすると、とても喜んでくれて、まるでお祭りのように盛り立ててくれるそうです。
栗山さんたちは、こういう地域の行政やNPOなど、地域の振興を意図している団体に積極的に働きかけ、上映活動をしたそうです。ネットやDMなどは一切使わず、紹介であったり、上映会を観に来た近隣の地域の人から声を掛けられたりという、有機的な繋がりによって拡大していったようです。それも、普通の会社と同じように、今月は何件、上映会をやろうと目標(ノルマ?)を立てたり、営業担当に発破を掛けて電話や手紙で情報を送るなど、かなり地道に活動を行っているようです。
また、こういう展開をしている性質上、普段映画を観ていない人たちが観客になる事も多く、『ふるさとがえり』をキッカケにして映画を好きになり、上映会を定期的に行うようになったり、劇場やTSUTAYAに足を運ぶようになった人も少なくないようです。

話が一段落したところで、土屋さんから根本さんに対して、TSUTAYA DISCASに登録されている20万の作品の中から、自分の作品の潜在的なファンとマッチングさせるには、どうしたら良いのか…という質問がありました。
それに対しては、たとえばTSUTAYAの店舗では、どうしても売れ筋を目立たせなければいけないし、そうなると必然的にバイアスが掛かってしまう。そういう面で考えると、ネット上では、できるだけバイアスが掛からない、公平性の高い世界が作れるのではないか…というのが、一つの答えになりそうです。
しかし、一方で、すでに話に出ている、外部からの刺激(たとえばテレビ放映など)によって動かされるのがユーザーであり、本当の意味で、平等に機会が与えられる世界を作るには、まだまだ時間が掛かりそうではあります。
また、伊達さんからは、自分たちの世代が観る映画が、今のシネコンには少ないのではないか…という話が出ました。昔の映画館では、館主が自分が良いと思う作品を押し出していましたが、シネコンではやはり、興行が重視されるのは当然かと思います。ですが、今の映画館でも、多スクリーンであれば、閑散期にある程度のチャレンジをする事は可能なようです。たとえば、ご当地映画には、そういう傾向があるようで、興行的にもそれなりのヒットが出ているようです。
イオンシネマが出店しているような、ローカルなエリアには娯楽が少なく、高校生ぐらいまでは地元で遊び、大学生になるともう少し大きな街に出てしまうという傾向があるそうです。そういう中で、映画館にはあまり人が集まらないのに、パチンコ屋さんには、たくさん人が集まっている…という事は、今回登壇しているようなオジサン世代にも娯楽のニーズはあるという事であり、潜在的なマーケットと捉える事ができます。
もし、その地域の中で映画館がメディアセンターとして機能して、昔映画を観ていた50代~60代のオジサンたちを再び映画に引き戻すような仕掛けが作れれば…大山さんは、そこにビジネスチャンスを感じているようです。

質疑応答
1時間半ほどが過ぎたところで、会場からの質疑応答の時間となりました。実際にビジネスの最前線にいる人たちのリアルな話を聞いた後だけに、多くの人から手が挙がり、質問もかなり具体的なものとなりました。
質問:今日紹介されたような新しい出口戦略は、インディペンデント映画との出会いの場としては有効だと思うが、今までミニシアターなどで映画を観ていたような、伝統的なインディペンデント映画の客層とは異なるライトユーザーをコアな映画ファンにするには、何がポイントとして必要だと思うか?
(根本さん)
まず、みんな映画の情報を知らない。能動的な映画ファンは少数派で、ほとんどの人たちは受け身であり、そこに情報が届けるステップが必要になる。ユーザーのニーズは、ますます細分化が進んでいるので、インディペンデント映画にも確実にニーズはあるはずだが、その情報が届いていない事がロスに繋がっている。そこのマッチングをT-SITEで効果的にやっていきたいと思っている。
(栗山さん)
上映会を主催する上映委員会に10人いて、その人たちが、それぞれ20人の友達を連れてくれば、それだけで200人になる。普段、映画を観ない人たちにとっては、知り合いから声を掛けられる事が最大のモチベーションとなる。
FaceBookや地元のローカルメディアの活用なども並行して行うべきだが、それ以上に重要なのは徹底的な人海戦術、そこしかない。
(大山さん)
人海戦術で人を呼ぶ事は、スポット上映では有効かもしれないが、通常の劇場公開の中でそれを行うのは難しい。社会性がありながらも楽しく観られるような、マーケットに受け入れられやすい作品を上映しながら、時間を掛けてファンを育てていく事が必要。ただ、それは非常に長いスパンで見なければいけないので、興行者の立場で、それをやります!とは言いづらい。作品を作る前から、その作品に合った出口やリクープの方法を考え、ワンパターン化しない方が良いのではないか。
質問:自分の作品をTSUTAYA DISCASに置いて欲しい時は、どこにアプローチすれば良いのか?
(根本さん)
現在はDVDメーカーから我々が仕入れるという形を取っているので、そこで契約してもらえばルートができるが、今はDVDを作る事自体も1つのハードルになるので、今後はデジタルデータのまま受渡しができるようにした方が、あらゆる映像をストックするという理念にも繋がると考えている。
今は過渡期なので、まだオープンに受け付けられるような仕組みにはなっていないが、今後は考えていきたい。
質問:自主上映(非劇場上映)の場合、料金設定などは、どのように考えれば良いのか?
(栗山さん)
『ふるさとがえり』の時には、誰も事務局をやってくれなかったので、自分たちの会社の中に一人担当を付けて事務局を立ち上げた。その時、劇映画で自主上映をやっている所はあまりなかったが、ドキュメンタリーは多かったので、そういうWEBサイトから情報を得たり、実際に会って話を聞いたりしながら、良い所を参考にシステムを作っていった。
映画を安くは売りたくないので、あまり安い価格設定はしていない。鑑賞料金は主催者が自由に設定できるが、その中から固定費用(数百円×観客数)を事務局で頂く形になっている。(その内の一部は恵那市のNPOにバックしている)
ただし、これで我々が楽になっているかというと、そうはなっておらず、やればやるほど様々な対応などに引っ張られて苦しくなっている。しかし、より多くの人に映画を観てもらう事が何よりの喜びなので、関わる人がなるべく辛くならないバランスを探っている。
質問:ご当地映画をイオンシネマのようなシネコンで上映する事は可能なのか?可能であれば、誰を窓口にすれば良いのか?
(大山さん)
ここにいる人たちを敵に回すかもしれないが、そもそも、作品を作る前に出口は決めていないのか?製作費をどのぐらいの期間で回収するかなども含め、出口戦略は事前に持っているのではないのか…という疑問があるが、一方で、こういう話はよくあるような気もする。
どこにブッキングの決裁権があるかというのは、映画館によって違うが、チェーン展開している劇場の場合、本社に編成の部署があって、そこですべて決めるのが一般的。多くの場合、メジャー作品だけで編成が埋まってしまう事が多いが、そういう中にも隙間はある。ご当地映画などについては、各劇場の支配人などから情報をもらう事が多い。まずは自元の映画館を回って、情報提供するところから始めれば、少なくともチャンスは出てくると思う。
質問:今まで自主配給でやってきたが、配給会社を付けるメリットは何か?また、配給会社を付けるには、どうすれば良いのか?
(大山)
たとえばミニシアターにおいても、予告編を流したり、チラシを撒いたり、ポスターを貼ったりといった、劇場に来る人たちに対するマーケティングは行っている。しかし、それだけでは十分とは言えず、作品の規模が大きくなればなるほど、より大きな予算を使った広告宣伝が必要になり、その役割を担ってくれるのが配給会社と言える。
また、製作者からすると、予算の精算や窓口の機能も果たしてくれる。絶えず連絡が取れて、何か問題や提案があった時に相談できる配給会社があれば、興行者としても心強い。
しかし、興行が1、2館の規模であれば、配給会社のメリットは、それほど大きくないかもしれない。興行者が気にするのは、その作品がどれぐらいの規模で上映されるのか、どれぐらい話題になるのか…つまり、どれぐらいの興行成績を上げられるのかが大きな関心事であり、興行規模が小さい場合には、配給会社はあまり関係ないという気はする。
(土屋)
ひとつ言っておくと、チラシを撒いただけではお客さんは絶対に来ないので、パブリシストに入ってもらって、マスコミに記事を載せてもらわないといけない。宣伝文を書いたり、試写状を送ったりという作業については、プロを使う方が絶対に良い。

まとめ
会場の雰囲気は、まだまだ質問し足りない様子でしたが、ここで終了の時間が来てしまいました。最後にゲストの3名から、締めの言葉を頂きました。
(根本)
私たちはプラットフォーマーなので、皆さんが一生懸命作られたコンテンツをできるだけ多くの皆さんに届けたいと思っている。インターネットというのは、ローコストでマーケティングができるツールだと考えているが、現状で大きな結果や成功事例が生まれているかと言うと、まだまだ発展途上であり、トライアンドエラーを繰り返しながらやっていかなければいけない段階である。5年後、10年後には、ここで話した事が形となって現れるようにしたいと思っている。
(栗山)
自分たちは10年かけて、ようやく、こういう所に来ている。単館系の劇場で公開して、国際映画祭で賞を取って…という旧来のスタイルは、もはや幻想であると改めて感じている。なぜ、制作する段階から出口を考えないのかと言う大山さんの言葉もあったが、誰に届けるのか、作ってからどうするのかという事をしっかり考え、具体的なチャネルやお金の事なども含めてクリエイトしていかないと暗い話ばかりになってしまう。
自分自身も3年後、5年後に映画を作っていられるかも分からない、まさにサバイバルな状況の中で、もっともっとがんばっていかなければいけない。一人の脚本家としても、本当に自分が書きたいものを書くのか、観客から受け入れられるものを作るのかというジレンマを抱えて作り手をやっていかなければいけないという事を改めて感じた。
(大山)
興行者の本音から言えば、お客さんがたくさん来てくれる映画は上映しなくてはいけないというシンプルな考え方がある。しかし、マーケットにどうやって寄与していくかという事を個々の映画館としては考えていかなければいけない。それは、映画館というメディアから何を発信するのかという事であり、それぞれの映画館が考えるべきだと思っている。
一方で、作り手側の作品が、そこまでどうやって届いていくのかという事については、企画の段階からもう少し色々なパターンを興行側も含めてシェアできれば、また一つのチャンスが生まれるのかと思う。その一例がご当地映画であり、そういう形で成功している人はたくさんいると思う。
製作、配給、興行と3つをあまり分けず、最終的に、多くの人に観てもらい、お金が循環し、そしてまた次の作品が作れるという事が、我々も含め、ここにいる皆さんの理想だと思うので、そういった情報がシェアできるコミュニケーションが取れる事が良いのではないかと思う。そういう意味で、今回は良い機会になった。
総括
今回のイベントは、ゲストのバランスも良く、想像していた以上に興味深い内容になりました。普段の鍋講座は、1~2名のゲストを呼んで、ある1つのテーマについて深く掘り下げて話をしてもらう事が多いので、このようなディスカッションのスタイルだと、話が有機的に繋がって行き、大きく広がっていく感覚を受けます。
その分、伊達さんや土屋さんのコントロールは大変だったかと思いますが、聞き応えのあるトークになったかと思います。
鍋会員の方たちはご存知の通り、私は映画鍋の中で自主上映部会を立ち上げたり、自らも自主上映をテーマにしたドキュメンタリーを制作中ですので、自然と栗山さんの話に気持ちが行ってしまいますが、他の二人のゲストの方々の話にも想像以上に刺激を受けました。
これまで当たり前だと思っていた、映画祭で賞を取ってミニシアターで上映する…というスタイルは、もちろん、これからも継続していくのでしょうが、それで成功事例を生み出せるのかと言うと、土屋さんの『タリウム少女の毒殺日記』の例を見ても分かるように、もはや難しい状況にあるのだろうと思います。『ふるさとがえり』のような分かりやすい成功事例もあって、自主上映はこれから注目される出口モデルだと思いますが、もしかすると、それすらも、すぐに使い古されてしまうのかもしれません。
このイベントで取り上げたシネコン、自主上映、ネット映像配信というのが全てではなく、むしろ、まだ可能性が見えていない未開の地にこそ、肥沃な土壌が隠されているようにも感じます。これから映画を作る人は、もっと柔軟に、その作品の価値をより多くの人と共有できる方法を模索すべきなのではないか…改めて、そのように考えさせられる、良い機会となりました。
(文責 山口亮)
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