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【鍋講座vol.20 独立映画を世界に売り込むためには!?】レポート

【日時】2015年1月16日(金)19:00〜 下北沢アレイホール
【ゲスト】長谷川 敏行(SKIPシティ国際Dシネマ映画祭チーフ・プログラマー)
【ファシリテーター】土屋 豊(映画監督『タリウム少女の毒殺日記』『PEEP “TV” SHOW』『新しい神様』)

 第20回、2015年最初の鍋講座は、「独立映画を世界に売り込むためには!?〜海外セールス基本編〜」。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭チーフ・プログラマーの長谷川敏行さんをゲストにお招きし、海外映画祭の経験豊富な土屋豊監督をファシリテーターに、日本映画の海外セールスの厳しい現状、海外映画祭の役割、海外における有力なセールスエージェントについて、また、長谷川さんの『チチを撮りに』の海外セールスの経験談などを、赤裸々にお話頂いた。また後半では、鍋会員の山本俊輔監督と鈴木徳至プロデューサーの、全く作風が異なる二作品のトレーラー上映を例に、海外戦略のご意見を頂いた。実体験を盛り込んだ、赤裸々でリアルなお話を聞く貴重な機会に、海外セールスを真剣に考えている(?)52名もの参加者が集まった。
日本映画は売れているのか?〜各国の映画産業構造を絡めて〜
 長谷川さんは大学卒業後、東映の国際営業部で5年ほど働いていた経歴があり、当時より、今は日本映画が海外の映画祭に出品されたことがニュースになることが増えたが、現状は韓国映画が成長、中国映画のマーケットが巨大化し、国際マーケットにおける日本映画の価値、プレゼンスは下がっていると感じる。2年前、ジャカルタで日本映画について訊いたが、映画祭では上映されるが、ここ数年の劇場公開は『ドラえもん』くらいで、実際には韓国映画の方がよく知られている。クールジャパン政策で話題になることは多いが、国の政策としてはアニメーションやキャラクタービジネスに重点が置かれているのが現状だと思う。日本映画がどのように売れているかと言うと、東映に勤務していた99〜03年当時、まだ映画がフィルム撮影だったころは2億〜5億円で作られた映画が沢山あったが、それでもアジアでは数百万円のMG(最低補償金)で、売る側はそこで貰いきりたいので出来るだけ高く売ろうとするが、現実はタイやシンガポールで2〜3百万円で売られてしまっていた。一方、台湾、韓国は多少大きなマーケットで、当時の大作は各国1千万円以上で売れた。当時の韓国は日本映画の公開が開放されたばかりで、日本映画が求められていた、バブルのタイミングだった。新作情報が流れると、作品がまだ出来ていなくても、当時アジアで人気だった人気女優が主演という理由でオファーがあった。一方、日本のタレントが知られているアジアとは違い、欧米マーケットではカンヌ、ベルリン、ベネチアなど有力な映画祭に入れることでステータスを作って売ることになる。映画産業構造を見ると、ヨーロッパ、特にフランスでは映画は守らねばならない芸術文化で、助成金で映画を作るのが普通で、作る時の助成の話として、フランスでは映画を作る時、興行成績に応じて自動助成が出る場合と、選択助成の場合は有名監督の作品が中心で、みんなカンヌ映画祭でコンペに入る作品を作りたいので、監督の名前だけでプロジェクトが動いている場合が多い。逆にアメリカでは、地域の税制優遇や還付金程度しか助成金がなく、ビジネスでしかお金が戻ってこないのだが、日本映画は外国語ゆえ字幕が必要で、特にドラマはスローでよくわからないと言われることが多く、日本映画という段階で商売になりにくい。最近の極端なエログロなど、ジャンルものについてはニッチなマーケットはあるが、一般的なドラマの場合、『Shall We ダンス?』(1996年)や『おくりびと。』(2008年)のような例外はあっても、一般的には売れていない。結論として、アジアは金額的に難しく、欧米では一般的な日本映画はマーケットにも上らないというのが現状。
海外マーケットを狙う目的〜海外映画祭とは〜
 海外マーケットを狙う上で、映画祭に出るのが一番現実的。ただ、映画祭に何か所出た、がいいわけではなく、実際は出れば出るほど貧乏になっていくこともある。映画祭のヒエラルキーの中には非常に悪質なものもあり、出ることを目的にしない方がいい。本来、映画祭に出る目的とは、カンヌを頂点とするいい映画祭に出ることでその作品の価値が高まり、併設されているマーケットで国際的に販売するうえでの手段であるが、特にインディペンデント映画で言えば、国内マーケットでの価値を高めたり、また今後の監督のキャリアになるという点だ。
セールスエージェントの役割
 セールスエージェントはセレクトショップのような役割を担っている。日本でのセールスエージェントは珍しいシステムで、製作配給会社に海外セールスの部門があることが多い。しかし、海外では製作、配給がそれぞれ分かれているのが普通なので、海外セールスを主業とする会社が育ってきた土壌がある。セールス会社と言っても1年に30本〜40本する会社から、4〜5本を丁寧にやる会社もある。メジャーではフランスではWild Bunch、ドイツのTHE MATCH FACTORYなどは非常に有力で、扱う多くの作品をカンヌや、ベネチア、ベルリンのコンペクラスにどんどん突っ込んでいき、映画の国際的な価値を高めている。セールスエージェントは、独自の情報やコネクションを駆使して自分たちで作品を選び、それらを映画祭のプログラマーやバイヤーに、何本もまとめて紹介していく。1本だけなら気づかれない作品を見つけることが出来るので、メジャーな映画祭も、新作で自分たちの映画祭に合う映画を彼らに訊いている感じ。メジャーな映画祭に選ばれたいならピュアに応募しても正直なかなか難しく、いくつか作品を供給しているセールスエージェントに作品を拾ってもらうことがもっとも有力な手段である。大手のセールスエージェントにはWild Bunch と合わせてかつて3大セールス会社と言われていたCelluloid Dreams、Fortissimo Filmsなどがあり、現在では、企画段階から監督の青田買いで、共同製作で参入している形が増えている。その場合、すでにカンヌ、ベルリン、ベネチアなどに作品が出品される監督の作品であることがほとんどである。だが、小さいセールスエージェントは、必ずしも有名監督でなくても可能性はある。一方、川喜多記念映画文化財団みたいなところも日本映画を常に紹介しているが、現実的なマーケット理論では、日本のインディペンデント映画の価値は、バイヤーのみならず映画祭の保守化により映画祭からも下落しており、例えば運よくベルリン映画祭のフォーラム部門あたりに作品が選ばれたとしても、セールスエージェントなしに買い手がつくのはかなり難しい。
 現在の日本映画は、是枝裕和監督、黒沢清監督、河瀬直美監督などが次々と海外映画祭で紹介された1990年代後半と比べ、今は映画祭がどんどん保守化しているので、大きな映画祭になればなるほど、毎回ほぼ同じビッグネームの監督作品が世界中を廻っている状況。また、新しい才能については、残念ながら国際的評価の高い監督達がすでにいる日本からよりも、まだあまり映画が国際的に紹介されていない新興の東南アジアなどの国から探そう、という流れにある。ただし、バイヤーがセールスエージェントを頼っている状況で、セールスエージェントとしてはカンヌ、ベルリン、ベネチアに入らねばビジネスにならないので、新人監督に手を出すより、すでに大きな監督しか手を出さない。また、日本のインディペンデント作品のなかにヨーロッパのセールスエージェントが扱っている作品がまれにあるが、それらの多くはヨーロッパのプロデューサーがついているものである。いずれにしても、セールスエージェントがすでに出来上がった作品を観てから扱うことは本当に少なくなっており、以前よりさらにセールスエージェントに見つけてもらうことが難しくなっているのが現状だ。
『チチを撮りに』 海外セールスについて
 『チチを撮りに』は2012年に自主制作で作られたが、プロデューサーがいくつかの配給会社に当たるも扱ってもらえず、監督はなんとか作品を見つけてもらうべく、海外の映画祭に応募しまくっていた。唯一国内で応募したSKIPシティ国際Dシネマ映画祭は、当時「SKIPシティDシネマプロジェクト」という作品の劇場公開を支援する制度があり、それに選ばれて劇場公開をしてもらうために応募をして、結果その年のSKIPシティDシネマプロジェクトに選ばれ映画祭の運営会社デジタルSKIPステーションで配給されることになった。『チチを撮りに』が出品された長編コンペティション部門の国際審査員2名のうちの韓国人女性プロデューサーからFortissimo Filmsが気に入るタイプの作品だと言われ、当時Fortissimo Filmsで働いていた知人にDVDを送った。日本でも無名の長編初監督の作品がFortissimo Filmsに拾われるとは思っていなかったが、早いタイミングで作品に関する質問の連絡があり、その後2か月半ほどの交渉を経て、2012年の東京国際映画祭で来日した会社の代表と、監督同席のもとでミーティングして決まった。ちなみに、2012年の長編コンペティション部門の国際審査員だった両名はともにFortissimo Filmsの代表と非常に親しくしており、その両名からの推薦メールがあったことが、『チチを撮りに』を扱うことのきっかけになったと言っていた。なお、Fortissimo Filmsとの交渉をプロデューサーの代行として行ったが、大手のセールスエージェントと交渉する場合、低予算映画といえども、求められる素材、また権利関係の書面は非常に細微に渡っていて、また当然全文英語なので、簡単なものではない。なお、交渉中に監督が応募していたワルシャワ国際映画祭のメインコンペに選ばれた連絡が入ったのだが、Fortissimo Filmsに相談すると、本作はそこでは出さない方がいいと言われ、結果としてベルリン国際映画祭のジェネレーション部門でプレミア上映された。ワルシャワに出してしまうと、他のヨーロッパのメジャーな映画祭ではコンペ部門でなくともインターナショナル・プレミアや少なくともヨーロピアン・プレミアを求めるので、それらには出せなくなってしまう。作品をビジネスとして扱っているセールスエージェントにとっては、映画祭に選ばれれば“どこでもいい”というものではないのだ。
 およそセールスの期間が過ぎた現在、ビジネスとしては、決して海外で収益があがったと言えるものではなかったが、日本で配給さえ見つからなかった作品が海外で注目をされるまでにいたり、海外の映画関係者が新作について気にかけてくれるなど、監督のキャリアにとっていい経験だったと感じる。国内の配給もそこまで大きくはなかったが、その後国内外の映画祭や映画賞で受賞したのは有意義だった。海外マーケットを目指す目的として、日本で興行の手だてがない映画が海外の評価を糧に国内での公開につながっていくことがあると先に話をしたが、『チチを撮りに』はその意味で結果を出せたのではないだろうか、と、長谷川さんは語る。
実例から戦略を考える
実例①山本俊輔監督『愛に渇く−thirst for love-』のトレーラー上映。暴力シーンが多い印象の作品。どう売り込んでいくべき?
【長谷川さんのアドバイス】:ジャンルものとして売ることはアリかも。今DVDマーケットが小さくなっているので、ビジネス展開としてはわからないが、北米のジャンルもののグロ押しで、はあるかも。でも予告編に関して言えば、音楽や映像もおそらくスローに見えるだろう。とにかくドラマの日本映画はスローだと思われていて、マーケットでは好まれないと思っていた方がいい。また、よく、すでに出来上がったものを海外で売りたいのだけど、という相談をされるのだが、現実的にみた時に、第三者の意見が最初から入ってなければ厳しい場合が多い。この作品の場合、グロを全面に押し出すことでファンタスティック映画祭系をまわしながら、DVDや VDOマーケットを探るのが可能性としてはあると思う。なお、狙う映画祭はセグメントすべき。ファンタジック映画祭にもヒエラルキーがあるので、上から出して行くほうがいい。シッチェス(スペイン)映画祭がその系では上位で、オースティンやモントリオールのファンタジアなどが向いていると思う。アジアなら、プチョン映画祭。ヨーロッパにも日本のエログロは多少マーケットがあるので、その路線を前面に打ち出して、人の関心を引いた方がいいかも。
実例②鈴木徳至プロデューサー『ハロー、スーパーノヴァ』は、去年、シネマロサで1週間レイトショー公開してしまったが、海外に出そうと、その後クラウドファンディングをした。
【長谷川さんのアドバイス】:作品のロングショット、色彩が独特なセンスで、非常にきれいなので、バンクーバーのようなインディペンデントの日本映画を上映してくれる映画祭から始めて、日本のインディペンデント映画を好む配給会社にアプローチしてみるのはどうか。ただし、新作ではない2013年制作の作品は上映してくれる映画祭は正直ないと思う。もし、海外の人に観てもらいたいのなら、新作を作る方が早いのかもしれない。

 今回は独立映画を海外に売る方法論を、海外セールスにおいての長谷川さんの経験談を聞いてきた。パワフルで沢山の作品を抱え、映画祭から頼られているセールスエージェントに出会わないと、映画祭に入るチャンスすら可能性は低く、また運良く出会っても、契約書類の山と大きな映画祭でのプロモーションにかかる経費を覚悟しなくてはならない。また、日本映画(特にドラマ)はスローだと思われていており、有名監督でなければ、日本映画というだけですでに売れにくいこと。企画・制作段階で海外と絡んでないと、完成してからセールスエージェントに見つけてもらうことも難しいことなど、海外マーケットにおいて日本映画の厳しい現実がクリアになった。しかし、自分の作品の傾向から目指す映画祭を見極め、一般的な日本映画がなぜスローだと思われているのか、目指すのが海外なら、ではどういう作品を作るべきか考えれば、『チチを撮りに』のようにインディペンデントで無名の監督でも、作品の力で有力なセールスエージェントにたどり着くこともある。また、必ずしも有名監督でなくても、作品を扱ってくれる可能性がある小さいセールスエージェントもある。制作段階で方向性をしっかり備えながら現実を見据え、人に出会い、可能性を拡げるために良質な海外映画祭に挑むしかなく、根本的に当然だが最も重要なのは、観た映画関係者がより有力な友人の誰かに繋げたいと思わせる、作品の個性と魅力なのだと感じた鍋講座だった。
(文責:山岡瑞子)
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