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【鍋講座vol.18】~ 法律編④ 映画の著作権って? レポート

【鍋講座vol.18】~ 法律編④ 映画の著作権って? レポート
日時:2014年7月9日(水)19:00~21:00 場所:下北沢アレイホール
【ゲスト】■田村祐一弁護士
【ファシリテーター】■伊達浩太朗(映画プロデューサー)

第18回目となる今回の鍋講座は、人気シリーズ「法律編」の第4弾! テーマは映画の製作、上映には欠かせない「著作権」についてです。
今回は2つの参考事例を用意し、それぞれについて田村弁護士に解説して頂きつつ、著作権とは何なのか? 著作権は誰に帰属するのか? というような事に関する理解を深めていきました。
【ケース1】

映画監督Aは、友人である脚本家Bが作成した脚本を読み、その内容がとても気に入ったため、Bと共にその台本に基づいて自主映画を制作することとした。
映画制作のための費用についてはA、Bの二人で半分ずつを負担することになった。
Aは、映画全体のイメージに合うように、主演俳優としてC、美術担当としてスタッフD、音楽担当としてスタッフEに声をかけ、手弁当で制作に参加してもらうこととした。
撮影においては、Aが衣装やカメラアングルなど適宜指示を出し、各スタッフとの連携の下進められ、映画は無事完成するに至った。当該映画は、国内外の映画祭で受賞を重ね、そこで得た賞金を宣伝費として使いつつ、無事劇場公開を果たし、制作費を上回る興行収入を上げることに成功した。
この場合、本件映画の著作権は誰に帰属するのか。


このケースで問題になるのは、作品の著作者が誰になるのか… という事です。
著作権法においては、著作物を実際に作成した人が著作者となり、著作権と著作者人格権という2つの権利を原始的に取得します。
ただし、職務著作という制度があり、法人などの従業員が職務上、著作物を作成した場合には、その著作者は従業員個人ではなく、法人が著作者となるそうです。つまり、この場合、法人が著作権と著作者人格権を取得します。
しかし、映画というのは、他の芸術作品などとは異なり、1人だけで制作するという事は、ほとんどありませんね。
そのため、著作権法においても、映画だけは別枠で、著作権者の認定方法に関する規定があるそうです。

(映画の著作物の著作者)
第16条 映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない。


法文というのは、やはり分かりにくい…
要するに「一貫したイメージを持って映画制作の全体に参加している者」が、著作者として認定されるそうです。
この規定に従うと、監督は当然ですが、撮影監督や美術監督なども、著作者として認定される可能性があるそうです。
実際、監督がほとんど撮影や編集に参加せず、助監督など他のスタッフがメインになって制作した映画の場合、名目的な監督ではなく実質的に監督業務を行っていたスタッフの方が著作者として認定された事例もあるそうです。
また、複数の著作者が存在する、共同著作というケースもあり、実際の制作がどのように行われたのか…というところの判断が大きいようです。
【ケース2】

(1)Bは、自分で書いた脚本をプロデューサーXに見せたところ意気投合し、一緒に映画を制作することを決め、お金集めからスタートした。BとXは簡単な企画書を作成し、映画制作会社であるD社に持ち込んだところ、D社の出資を受け制作することが決定した。
その後、Xは、Aを監督として選定し、映画は無事に撮影され、完成後、国内外の映画祭で受賞を重ね、そこで得た賞金を宣伝費として使いつつ、無事劇場公開を果たし、制作費を上回る興行収入を上げることに成功した。
(2)(1)において、映画撮影中にその方針を巡って監督AとX、D社が衝突し、撮影は途中で終了してしまった。編集を経ていない撮影済みの映像の著作権は誰のものになるか?
(3)(1)において、D社、DVD販売を専門とするZ社、配給会社のW社が参加し、製作委員会が発足して制作費用を出資していた場合には、映画の著作権は誰に帰属するか?


事例的にはケース1と似ていますが、このケースでは、プロデューサーXと出資しているD社という新たな要素が加わっています。
ケース1では、著作者=著作権者でした。しかし映画の場合は前述の通り、多くの関係者が存在しますので、他の著作物に比べて複雑になる事が多いようです。
重要なのは、映画では、著作権と著作者人格権は切り離して考えなければならない… という事です。
著作権も著作者人格権も、著作物の作成と同時に自動的に発生するものですが、著作権に関しては、著作者ではなく、映画製作者に帰属します。ただし、職務著作の映画だけは、法人が著作者かつ著作権者です。
これは著作権法で、以下のように規定されています。

(映画の著作物の著作権の帰属)
第29条
映画の著作物(第十五条第一項、次項又は第三項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。


ここで「映画製作者」という新しい概念が出てきました。
これについても、やはり著作権法上の定義があります。

(定義)
第2条 十 映画製作者 映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。


…ここら辺まで来ると、言葉の定義が重要になってきますね。
「責任」はともかく「発意」なんて言葉は、これまでの人生の中で使った事がありません。
要するに、この映画を誰が発案したのか… という事ですね。
ただし、この「発意」については、「最初にその映画を自ら企画、立案した場合に限られると解すべき理由はなく、他人からの働きかけを受けて制作意思を有するに至った場合もこれに含まれる」という判例があるそうで、ここら辺は、定義がだいぶ曖昧というか、色々と揉めそうな部分だなあ… という気がします。
話はさらに、未完成の映画の場合、製作委員会で作られた場合…と進んでいきます。
未完成の映画の場合、「著作物と認められるに足りる映画が完成している」事が重要になるようです。しかし、これも非常に曖昧な表現ですね。どの程度まで完成していれば「映画」と言えるのか、判断が難しいように思います。

後半の質疑応答では、参加者から具体的な質問、議論が出されました
著作権者が複数いる場合は、どうなるのか?
監督とタッグを組んでいるカメラマンなどは著作権者として認められないのか?
出演者やスタッフの労働出資(現物出資)に関する問題点は?
会社と組合の違い(有限責任か無限責任か)
…などなど
一つ一つの質問に対して、田村先生から法律的な解釈を伺うとともに、映画業界での慣例や実務上の処理などについて、伊達さんや参加者から補足が入る場面が多く見られました。
全体的な印象として、映画の製作には多くの人や会社が関係している事が、権利の問題を複雑にしている事を強く感じました。3月に行われた「世界の映画行政を知る 日本編」でも、映画という芸術分野の特殊性について触れられていましたが、著作権に関しても、音楽や小説などといった、他の著作物とは異なる、ややこしい状況があるようです。
また、法律には曖昧な部分も多く、業界の慣例によって暗黙の内に処理されている事が多いように感じました。
映画製作というのは、人間関係に依存しているところが大きく、いきなり契約書を交わすなどは、ギスギスした雰囲気を生んでしまいそうですが、後のトラブルを避けるためには、制作を開始する時点、あるいは企画の段階から、お互いの権利を明確にする事は必要なのだと思います。
(文責:山口 亮)
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