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【鍋講座vol.17】フィルムコミッションと制作者の友好な関係とは? レポート

【鍋講座vol.17】フィルムコミッションと制作者の友好な関係とは? レポート
日時:2014年6月10日 19:00~21:00 場所:下北沢アレイホール
【ゲスト】関根留理子(JFC事務局次長/フィルムコミッショナー)
【ファシリテーター】野本康夫(鍋会員/キャメラマン)
行政サービスとしてのフィルムコミッション(FC)が日本にできて15年が経つ。いまや200ものFCが全国各地で映像制作者のロケ協力をしているという。 埼玉県だけでも24もある!世界で最もFCが多い国ってどういうことだ? 
様々な規模と目的で運営されている各地のFCを束ねるNPO法人、ジャパン・フィルムコミッションから関根さんがトークに来てくれた。
参加者は37名を迎え、今回も講座終了後の雑談名刺交換タイムから打ち上げへと、またまた今回も深夜まで交流は続いたのだった!

関根さんは、わかりやすい資料「フィルムコミッションの役割とロケ支援に関する問題点」をテキストに、どんどん話を進めていった。(資料は文末参照)
フィルムコミッションの定義が明快だ。映像作品のロケーション撮影が円滑に行なわれるための支援をする団体だ。そして、要件が大まかに三つあるという。
1. 非営利の公的機関である
2. 撮影支援の相談のワンストップ・サービスを行なう
3. 支援するかしないかは、作品内容で選ばない
FCの成功例はいろいろある。道路封鎖や国有地での撮影許可などは、さすが行政に近いFCの本領発揮だ。暴力団とのトラブル防止などは、コミュニティの人間関係がよくわかっている地元ならではの調整役。ボランティアエキストラを大勢集め動かしたり(映画『プリンセス・トヨトミ』)、大型アクションシーンの撮影に地元空港や企業の全面協力を得たり(映画『交渉人』)、おそらくFCのなかった時代には至難だった撮影がスムーズにコーディネートされている例は数多い。
多くの場合、FCは役場の観光課や文化交流課などに置かれていて、ロケを通して地域にメリットを求める。例えば、経済効果や雇用の創出、文化振興やコミュニティ形成など。それぞれの地元によって、何を目的にしているかが異なる。撮影が多いところもあれば少ないところもある。観光を誘致したいところもあれば、村おこしをしたいところもある。それぞれ思惑があるのだ。だから、限られたスタッフで対応していくためには、すべての支援要請に応えないこともある。どうやら低予算映画はサポートの優先順位が低くなる場合もありそうだ。
映画のエンドクレジットで地名が広く露出することを求める議会の地元だと、商業映画とテレビドラマしか支援しない、という判断になってしまう。あるいは行政がやっているFCでは、その役場の方針を支持しないわけにいかない、なんてこともあるらしい。担当者の気持ちとしてはやりたくても、役人という制約は確かにあるのだ、と関根さん。

今回の講義の全体を通して、関根さんが言葉に詰まる場面が何度かあった。いずれも、「FCはこうなんです」と言い切ることが難しい質問を振られたときだった。つまり、地域ごと、FCごとにあまりに多種多様だから、一般論で言い難いという感じがした。それぞれの違いや特徴を理解して、どこで撮影するか、どのFCに協力を仰ぐと良いのか、制作者サイドで考えるべきことはあるのだろう。
イベントタイトルで「FCと制作者の友好な関係とは?」と問うのも当然。実際はクレームやトラブルはある。評判の悪い製作会社のブラックリストもあるらしい。地元のフェリー、バス、弁当代の未払い、トンズら。閑静な住宅街で撮影が4時間も延び、深夜に及んだり。プロのリサーチャーが電話一本でFCに情報提供を求め、自分の仕事としてしまう悪質な搾取。
制作者がFCを利用する際のヒントとして、関根さんが繰り返し言っていたこと。ロケ助成を目当てにしたり、一方的に制作サイドの事情を申し渡すのではなく、地域へのこだわりや愛着、地域との協同性、作品への情熱を重視していくアプローチが大事だということ。FCはあくまで、地域住民・官庁と制作者の間をつなぐコーディネーター。地元の想いを理解し、尊重する姿勢で撮影に臨むこと、早くから相談していくこと、地元の人との意思疎通が、FCさんの仕事をラクにし、より豊かな作品づくりに結実するのではないか? 
なんと。実にまっとうで、どんな仕事でも当たり前のことが、秘訣なのであった。
最後の質疑応答で、土屋豊監督が「自作で道路封鎖を使いたい!」と宣言。関根さんいわく、安全性、そして地域の合意が取れていることさえ守られれば、許可は下りるらしい。鍋会員の皆さん、FCの協力を得て、ぜひやってみてください。
(文責:藤岡朝子)
【ゲスト】関根留理子さん(JFC事務局次長/フィルムコミッショナー)
長崎市生まれ。高校卒業後渡米、大学でジャーナリズムを専攻し、旅行会社勤務の傍ら邦人向けフリーペーパーを発行するなど9年間をアメリカで過ごす。帰国後、長崎市の親善大使や地元タウン誌編集記者を経て、2004年から長崎県フィルムコミッションで約5年間FC事業に従事する。JFC設立準備事務局の立ち上げのため上京。2009年JFC設立から現職に至る。

当日、講演部分の記録動画
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