【鍋講座Vol.14】世界の独立映画事情インドネシア編 レポート
日時:2014年1月30日18:30~21:00 場所:オーディトリウム渋谷【ゲスト】メイスク・タウリシア(映画プロデューサー『動物園からのポストカード』『空を飛びたい盲目のブタ』)
【ファシリテーター】深田晃司(映画監督『歓待』『ほとりの朔子』)
【通訳者】藤岡朝子(山形国際ドキュメンタリー映画祭東京事務局ディレクター)
海外の事例を学ぶことで、日本の独立映画を取り巻く環境、システムを客観的に捉え直す機会として開催している「鍋講座 世界の独立映画事情」。アメリカ・ニューヨークのIFP(Independent Filmmaker Project)を取り上げた第1弾(参考:鍋講座「世界の独立映画事情NY編」レポート)に続き、インドネシア編を開催した。ゲストは、インドネシア映画で初めてベルリン国際映画祭コンペ部門にノミネートされた『動物園からのポストカード』(監督:エドウィン)のプロデューサー、メイスク・タウリシアさん。同じくプロデュース作品である、エドウィン監督の長編第1作『空を飛びたい盲目のブタ』を上映後、2作品の製作背景から独立映画の“成功モデル”の秘訣を探った。
●温室のような環境で良い映画は生まれない
まず、エドウィン監督がビデオレターで登場。上映作品『空を飛びたい盲目のブタ』は2008年製作の初めての長編作品で、「今でも私が映画を作り、上映を行なっていけるのはこの最初の映画があったおかげ」と熱く語った。資金が全くない状態から、友人知人、家族に広く支援を呼びかけ、資金、機材等多くのサポートが集まったことで「もう後戻りはできない」とモチベーションが高まったと言う。資金が潤沢にない中、35ミリでの製作は賢い選択ではなかったものの、「温室のような環境では良い映画は生まれない」と自分たちに課す試練として捉えた。「この映画は私たちのものではなく、私たちを支えてくれた、たくさんの人たちもの」と語った。
●借金をして4万米ドルで完成した初長編作品
続いてメイスクさんのお話がスタート。もともと衣装デザイナーとして働いていたというメイスクさんはある映画の現場でエドウィン監督と知り合い、そこから関係が深まっていった。当時、エドウィン監督は4本目の短編がカンヌ国際映画祭の監督週間で上映されたばかり。メイスクさんはエドウィン監督の作品に惚れ込んでおり、彼の映画に関わっていた撮影監督とふたりで長編を作るように持ちかけたところ、自身がプロデューサーを引き受けることになったという。
自宅を事務所として使い、フィルムや機材はあらゆるところから調達。撮影にかかる旅費に現金が必要となり、海外のファンドのリサーチを始めた。最終的にロッテルダム国際映画祭のフーベルト・バルス財団、そしてアメリカのグローバル・フィルム・イニシアティブから資金を得ることができ、国内のカンパも合わせてようやく撮影を開始。資金が尽きると現場は止まり、スタッフも入れ代わり立ち代りの状況だったと言う。そのため、エンドクレジットには関わった多くの人の名前が並んでいる。
こうして2008年に完成したのがエドウィン監督初長編映画『空を飛びたい盲目のブタ』。製作にかかった費用は4万米ドル。借金をしたり、機材費を分割払いにしたり、やりくりをしながら1年をかけて出来上がった。2008年の釜山国際映画祭ニューカレント部門(コンペティション)での上映を皮切りに、翌年2009年は1年間で45箇所の映画祭で上映。ナント三大陸映画祭、ロッテルダム国際映画祭を含む5つの映画祭で様々な賞を受賞している。
こういった製作背景をふまえ、深田監督は自身の監督作品『東京人間喜劇』を引き合いに「エンドクレジットにやたらと名前が並んでいるのは自分の作品も同じ。日本のインディペンデント映画関係者も共感する話が多いのではないかと思うが、資金不足に直面すると最初の選択肢として日本では自腹を切る。メイスクさんは海外の助成に目をつけた点が違う。」と発言した。メイスクさんは、「最初は手探りで、タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の映画を観ては、クレジット部分で再生と停止を繰り返し、載っているファンドを片っ端から書き出したこともある。」と語った。
●長編第二弾は多くの助成を受け、製作費70万米ドル!
エドウィン監督の長編第二弾はインドネシア、香港、ドイツの合作となった『動物園からのポストカード』。この作品は2009年にトリノ・フィルム・ラボのプログラマー(ドイツ人)に出会ったメイスクさんが、イタリアでのピッチング(映画の企画をプレゼンする会議)への参加を提案され、エドウィン監督に打診。「動物園」というアイデアをもとに、2週間でシノプシスを準備し、プレゼンやワークショップに参加。18万ユーロを見事獲得したという。同作品の製作費は総額70万米ドルとなっている。
2009年11月にトリノ・フィルム・ラボのピッチで助成作品に選ばれ、2年間の締切りはあったものの、この助成を受けたことが信用につながりオランダ、アメリカ、スウェーデンなどの助成金も獲得できたという。深田監督が「日本の助成金は年度で縛りがあり、2~3年というのはまず許されない。お金を使わないと、と常に急いで作っているイメージ。助成金を元手に資金をふくらませることも難しい。ただ逆に7千万円くらいの規模になると、大衆性が求められるのでは?」と指摘。それに対しメイスクさんは「助成を受けているということは、大衆性と言うよりも、豊かな芸術性、作品性、クオリティーが求められること。」と述べ、「インドネシアでは検閲があり、こういった映画はシネコンで商業公開は無理。利益も少ない。海外への配給を考え、海外の助成金を獲得したり、合作としたりしている。日本にはミニシアター文化が根付いていて、非常にうらやましい。」と続けた。
終了後の打ち上げでは「実際に生活費はどうしているのか?」など、更に踏み込んだ質問も飛び出した。メイスクさんは映画の財政状況に関するリサーチのため、これから6ヶ月間タイに滞在するとのこと。『エキゾチック・ピクチャーズ』というエドウィン監督の新しい映画も進行中だ。「映画製作は、“撮影は結婚披露宴のようなもの”。みんながわーっと集まってきて、お祭りのよう。でも私はプロデューサーとして映画が出来上がった後のこと、上映のことを考えている。特にインドネシアでどう展開していくか、これからも探っていきたい。」(文責:高木祥衣)
★当日の記録
★『空を飛びたい盲目のブタ』予告編