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キノトライブ2014_オープニング・トーク レポート

キノトライブ2014
『映画はどこにある——インディペンデント映画の新しい波』(フィルムアート社)刊行記念企画
オープニング・トーク
『映画はどこにある——インディペンデント映画の新しい波』刊行にあたって
日時:2014年1月25日(土)11:00~13:30 オーディトリウム渋谷
【登壇者】
寺岡裕治(映画文筆)、深田晃司(映画監督)、伊達浩太朗(映画プロデューサー)
※注:登壇予定だったフィルムアート社編集の薮崎今日子氏は、体調不良で欠席。

 近年のインディペンデント映画の量質にわたる盛り上がり、この現象をどう捉えるべきか。シネフィルならずとも、考えたことがある人は少なくないはずだ。この現象に向き合うためには、当たり前だが、まずこの現象を対象化する必要がある。
 「デジタル機材が汎用化し、映画を取り巻く状況が混沌としている。しかしこの状況を鳥瞰図にするのはまだ早い。それ以前に一次情報が不足している」(寺岡)。寺岡氏はその思いから、ドキュメントとして、映画監督や現場スタッフ、配給・宣伝、劇場関係者、さらには観客などにインタビューし、この大書を作り上げた。
 「インディペント映画は皆がバラバラに活動できることが重要だ。しかし本として一冊にまとめてみるとまた違った見え方がするのではないか」(寺岡)。
 いま活躍している若手監督は、各種映画学校の出身者が多い。そういう学校の映画監督養成コースでは、全員ではなく数名を選んで卒業制作として映画を作らせることが普通だ。インタビューを重ねるなかで寺岡氏は、そこで「選ばれなかった」者がいま活躍している割合が高いことに気付いたそうだ。「違った見え方」がした好例であろう。
 意外というか、深田晃司監督も映画学校で「選ばれなかった」そうだ。「選ばれた人はもちろん才能があると思います。しかし映画を作る才能と、映画を作り続けられるのかは異なるのでしょう。しぶとく作り続けた人が生き残っている。もともと映画というのは本当にお金がかかる芸術であり、映画を作る人々は選ばれた特権的な立場にいた。しかし特権は消滅し、王様は裸になった。だからこそ映画を作り続けるためには、なぜ作るのかという動機を持てるかが重要になる」(深田)。
 安価なデジタル機材で撮影しパソコンで編集し、映画が作れてしまう。1960年代フランスのヌーベルバーグが撮影所から解放されたのと同じ、撮影機材の革新による「新しい波」である。
 戦後の独立プロ運動、若松孝二監督らの取り組み、そしてATG。これらと現在のインディペンデント映画はどこか違うと私は感じていた。自主的に映画を作るという点では同じなのだが、上の世代の独立系の監督からも「違う」と言われたことがある。
 映画が万人に解放され、極端に言えば誰でも映画を作れてしまう。だからこそ上の世代とは異なり、映画を作ったあとが勝負の分かれ目になる。しかし、世話をしてくれるプロデューサーが都合よく増えるわけもない。セルフプロデュースで苦闘せざるを得なかった「選ばれなかった」者が生き残るという、逆説が成立する背景である。
 会場に来ておられた、上の世代を代表するお一人である足立正生監督の発言があった。深田晃司監督の『歓待1.1』については、「エンタメ監督としてなかなか手練れで上手い。そのことが残念だ(笑)」。また、現在の状況に関して、「デジタル化で誰もが映画作家になれ、また批評を受ける権利がある。観客が一番重要な批評家だが、その意を汲み取るシステムがないことが、この本の誕生や独立映画鍋の運動につながっている」「映画を作りたいという意志には変化はない。その志が突き抜けていくような映画を作れる場を、もっと強化してくれたら」と、期待を込めた激励をいただいた。土屋豊監督、深田晃司監督などと独立映画鍋(NPO法人)の活動に打ち込んでいる者として、感慨深かった。
 さて、批評を汲み取るシステムがない。これは重要な示唆である。文学も、文芸批評により対象化され鍛えられることにより、個人的なものから昇華し普遍性を獲得できる。他者から批判されるからこそ、耐えうるものになるのだ。1960年代フランスのヌーベルバーグも、映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ』などによる批評運動とともにあった。
 もちろん「twitterなど、WEB時代になり観客からの批評が強化された」(深田)という側面はある。しかし誰でも映画が作れるようになった今だからこそ、作り続けるためにも豊かな旺盛な批評が必要なのだ。今回のトークを通じて、そのことを強く感じた。
(文責:伊達浩太朗)
『映画はどこにある——インディペンデント映画の新しい波』
フィルムアート社
ISBN-10: 4845913062
ISBN-13: 978-4845913060
発売日: 2014/2/1
http://filmart.co.jp/books/history_theory/2014-2-01sat/
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