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【鍋講座vol.12】法律編③「弁護士に法律相談!プライバシー権、肖像権」レポート

2013年11月1日(金)19:00〜@下北沢アレイホール
【ゲスト】西脇怜史弁護士
【ファシリテーター】伊達浩太朗

ほぼ月一回開催されている【鍋講座】の中でも大好評のシリーズ企画「法律編」の第3回目が去る11月1日に行われた。今回のテーマは、「プライバシー権、肖像権」。相談事例は下記の通り。
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30代OL・A子さんからの相談です。
先日、都内のミニシアターで自主映画とかいうジャンルの邦画を観ました。夫との久しぶりのデートだったので超楽しみにしていたんですが、とんでもないことになってしまいました。渋谷センター街のシーンの端っこに、私と元カレがバッタリ出会って、たまたま一緒に歩いているところが映っていたのです!夫はすぐにそれに気づき、誤解してしまい、いま私たち夫婦は離婚の危機に瀕しています。「プライバシーの侵害」とかで訴えてやりたいんですが、裁判になったら勝てるでしょうか?教えて下さい!
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インディペンデント映画の製作体制で渋谷センター街の通行をせき止め、その雑踏を全員エキストラで再現する場合の予算、段取り、スタッフ人数等を考えてみてほしい。無理だ。その2時間の撮影で製作費のほとんどを使ってしまうと言ってもそれほどオーバーではないだろう。だから、今回の相談事例はリアリティがある。みんなビクビクしながら撮ってるに違いない。
というわけで、ゲスト講師の西脇怜史弁護士に訊いてみたところ、結論は案外簡単だった。
「A子がプライバシー権等の侵害を理由に自主映画製作者に対して映画の差止請求や損害賠償請求をしても、認められない可能性が極めて高いと思われる」
西脇弁護士は、その理由を丁寧に説明してくれた。会場に集まった約30名の参加者は、自分自身の差し迫った問題としてかなり真剣に聞き入っているように感じられた。勿論私も集中力を高めて聞き入った。過去何度かビビりながら、あるいは無理矢理開き直って渋谷の雑踏の中で撮影した経験がある私としては、自分の正当性を保証してもらおうという気持ちでいっぱいだったのだ。
西脇先生のお話を伺った私の個人的な印象としては、「表現の自由」というものは自分が想像する以上に強く保護されているんだなということだった。受忍限度を超える場合、つまり、「さすがにこれはヤバイんじゃないか」と思われる場合に限ってそれは制限されるようだ。では、今回のA子のケースが「それほどヤバくない」主な理由はというと…
▲撮影目的は映画のワンシーンを撮ることであり、A子と元カレを撮ろうとしたわけでは勿論ない。
▲A子と元カレを画面の中心でフォーカスしておらず、画面の端っこに映っているだけ。
…ということらしい。
ホッとした。なんだ、全然OKじゃないか!
しかし、なんかちょっと心にざらっとした違和感が残る。そうは言ってもA子は離婚の危機だ。映画のせいで離婚の危機にあることは間違いないのだ(映画がなくても危なかったんじゃないかという疑いもなくはないが、今回はそのことは置いておく)。俺がA子だったら納得できるか!?
相談事例についての解説のあとは、西脇弁護士にストリートファッションをウェブサイトで紹介する「街の人」肖像権侵害事件やGoogleストリートビューで洗濯物を撮影・公表された事件の判例についてご説明頂いたが、やはり、「撮る側」と「撮られる側」の立場を行ったり来たりしながら聞いていた私はなんともアンビバレンツな気持ちだった。
他の参加者も同じような気持ちだったのか、質疑応答の時間では様々な質問や意見が次から次へと飛び出した。
「ドヤ街の労働者を本人の承諾を得て撮影した場合でもその家族から苦情が来たらどうなる?」、「ストリートビューは見る側によってフォーカスが可能だが、そういうことは考慮に入れないのか?」、「指名手配写真を撮影して映画に使いたいんだけど、それはOK?」、「子供が撮ってくれと言って来たんだけど、親の承諾がなきゃダメ?」、「精神障害者の撮影の承諾はどこまで有効なのか?」、「台風報道は強風を伝えることが目的だから、女性のスカートがヤバくても放送していいの?」、「はじめに全ての撮影を承諾するという契約をすれば、オフレコ発言でも公表していいんじゃないか?」などなど。
様々な角度からの質問や意見に対して、西脇弁護士は勿論、今までの法律編シリーズにお越し頂いた末吉弁護士や田村弁護士にもご発言頂き、【鍋講座】ならではのエキサイティングな議論となった。私が一番印象に残ったのは「撮られる側の立場になって、自分だったら嫌だなという素直な感覚が大事」というシンプルな意見だった。「表現の自由」の上にあぐらをかかず、撮られる側とのコミュニケーションを大切にすること。当たり前のことだけど、このことが法律相談の場で語られたことが新鮮だった。
【鍋講座_法律編シリーズ】は奥深いです。今回ご参加頂けなかった皆さんは次の機会に是非!
(レポート:土屋 豊)
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