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鍋講座Vol.6 助成金を知る① 公共のお金で映画を作る?! レポート

2013年1月31日(木) 19:00~21:00 下北沢アレイホール
 「映画の多様性を確保する為には、一個人の忍耐力に頼るのではなく、公共的なサポートが必要なのです。」と宣言した独立映画鍋の設立趣旨。インディペンデント映画関係者と「役立つ情報」を共有するハブになるべく、「まずは助成金や補助のプログラムにどういうのがあるのか知りたいよね」と、本講座が企画された。
 ゲストにユニジャパン事務局長の西村隆さん、聞き手は深田晃司監督(本NPO共同代表)を迎え、50人もの参加があった。やはりお金の話に、人は集まる! 

● 助成金の裏付け


 西村さんの話はまず日本映画の助成制度の裏付けになっている二つの公的文書の話から始まった。一つ目は2001年12月に施行された「文化芸術振興基本法」で、芸術を振興するのは国の責務である!と明確にしたもの。
 そして、2003年4月に発表された「これからの日本映画の振興について(提言)~日本映画の再生のために~」が具体的な提言をしている。
 「国が金を出すためには、理由がいる。その裏付けとなるものを知るべき。」と西村さん。
 どの省庁も財務省から金をぶんどるために方策を立てねばならない。そして支援の「成功」が「証明」された場合、役所はその方針を続けるだろう、と。今回の講座では西村さんは一貫して、この「公金をもらうための説得力ある主張をもて」というメッセージを強く訴えたのだった。

● サポートプログラムの一覧表


 さて今回の講座に合わせて、ユニジャパン・スタッフの大野敦子さんが、全国で公募している映画助成プログラムの7ページに渡るリストを作成した。これをドキュメンタリーの海外助成金リストと合わせて会場で配布した。
 西村さんはこのリストの中から、ユニジャパンの海外展開支援各事業をはじめ、主なフィルムコミッションや映画祭(民間も含む)などのプログラムを簡単に紹介。そして近年は国際的な「企画マーケット」が流行していることとその実態へと話を進めた。リストにあるプログラム以外でも、主題や活動次第で支援してくれる各種ファンドや地方自治体もあるからアプローチをしてみる甲斐はある、という提案も後で会場の参加者から出た。
※ 配布した支援プログラムのリストは近く、独立映画鍋のウェブサイト上にアップし共有できるようにする予定である。

● 文化庁の映画製作助成


 深田さんとのディスカッションでは、まず世界の中の日本の状況が語られた。世界では日本人は金持ちと思われがちだが、海外の映画祭に招待されることの多いインディーズ系は、実は文化庁の助成金申請条件に満たない製作予算なので恩恵を被ることができず苦しい、と深田さんが指摘。年度末締めの単年度システムも制作スケジュールの制約となる。対する西村さんは、日本の助成金が厳しい条件であることを、役人に伝えることを映画人が怠っているのではないかと訴えた。さらにヨーロッパでは手厚い助成金システムが必ずしも産業の活性化につながっていない負の事例や、製作助成制度ではなく海賊版の取り締まりや外国映画の輸入や上映を制限するクオータ制撤廃に動くことで支援をするアメリカ政府の例をあげ、支援する側のジレンマや製作助成に頼らないシステムに言及した。
 深田さんも、助成金をもらったらその実績を元に他の出資や寄付を集められる製作体制を提案。60万円のサポートをもらって、60万円の映画を作るのではなく、よりグレードの高いものを目指して頭を使う方策が個人映画製作者にも必要かもしれない。

● 上映の重要性


 会場との交流では、助成をもらった作品を一般公開しようと努力しない若い作り手に対する苦言と、「観客に届いて初めて完成」という原則を助成金制度がフォローすべきとの意見が出た。西村さんは「自主製作の作り手は自らをゲットー化してないだろうか。アップリンクとユーロスペースがあればいい、みたいな。『作ったから次は映画祭に出す』と自動的に思いこみ、考えもなく海外展開助成の面接に来る監督にがっくり来ることがある。」と。
 対して深田さんは、映画学校で「映画を見せていくことについて」教えてない、上映の支援がない中で個人の努力に帰すにはインディーズは無防備で貧しすぎる、と嘆いた。
 続いて、国家機関として韓国のKOFICや英国フィルムカウンシル、フランスの映画省と、映画専門機関のない日本との比較が話題に。フランスや韓国では、民間の人材を取り込みながら、産業や製作者のニーズと連動し、多額の公的資金をとってくる力がある。西村さんの懸念は、巨大化して官僚化する中で無駄な金が滞留する場合もある点、そして日本には、アメリカより規模は小さいが映画産業が頑としてあり、そこが壊滅しないかぎりフランスや韓国のシステムを丸ごと導入するのは非現実、とのこと。そして韓国が国を挙げて金と人材をそそぎこんでいるのに対し、映画と社会の間に立つ人材が日本は圧倒的に不足している、と。西村さんいわく、「日本映画界は歴史も伝統もあるのに、行政・政治との接点が薄く、公共の助成金をもらうために役人に訴える説得力ある言葉でコミュニケーションする力が弱い。」

● 映画の多様性に向けて


 作られる映画が増え、観客が減る中、動員1万人でペイする規模の作品に向けてのサポート制度があるべき、と会場から意見。西村さんは「人材育成のために必要、という理屈で訴えていけば?」と提案しつつ、「昨今の技術革新で映画の民主主義は実現したが、その製作本数の多さが映画の多様性を高めているか、活性化に貢献しているかわからない」と厳しい意見。
 観客を育て、映画を見る土壌を肥やすことが必要だ、と深田さん。映画教育への資金投入やフリーパス制度によって観客を増やしていく可能性を語った。

● 海外映画祭の情報


 次に「海外の映画祭はそれぞれカラーやフィロソフィーがあるようだが、自分の映画ならどこに出したらいいのか参考になる本がほしい」と会場からの提案。西村さんは、映画祭データベースを作りたいという考えはある。日本映画サイトmidnighteye.comのようなマニアックなものがおもしろいが、それは情熱のある専門家に任せ、ユニジャパンでは中立的なものになるだろう、と。深田さんは、日本映画の国際競争力が落ちている今、外国の専門家が日本映画を今どう見ているのか、生の実感のある声を集めてみたい、と共感した。いずれ映画鍋の企画でそのような講座が実現するかもしれない。「河瀬直美はなぜあれほどフランスで受けるのか?」等…。

● ユニジャパンと西村さん


 ちなみにユニジャパンとは、日本映画の海外普及と東京国際映画祭の開催運営をしている公益財団法人で、支援プログラムとしては海外の映画祭上映の外国語字幕製作、渡航費、宣伝用素材製作サポートなどがある。講座の最後に、西村さんからユニジャパンの助成金の審査基準について解説があり、今後も情報、作品、人の交流をさらにさかんにしていきたいという抱負が語られた。
 実は西村さんもその活動のため、公金を引っ張ってこないといけないのである! 
 終始穏やかで柔らかい語り口ながら、映画の作り手に対してかなり辛口の発言を重ねた西村さん。助成金ゲットのうまい話を期待して来た参加者にとっては、冷水浴になったかどうか。あらゆる逆境の中でも「映画を撮るためなら!」と、仰天するような常識はずれをしてきた先輩監督たちと仕事した西村さんが、今を生きる日本の映画人にも期待をしてるのだ、と解釈することにします。「金を獲る側と出す側のだましあいなんだよ」「ラクして金をもらえるなんて、思うな!」というメッセージ、聴こえましたか? (文責:藤岡朝子)

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