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【鍋講座vol.10】国際コミュニケーション編② 実践! 独立映画の海外展開!レポート

2013年7月3日19:00~ 下北沢アレイホール
【ゲスト】想田和弘(映画監督)
【ファシリテーター】土屋豊
鍋講座vol10
記念すべき10回目となる鍋講座は、前回大好評だった「国際コミュニケーション編」の第2弾。「選挙2」の公開で来日中の、想田和弘監督(NY在住)をゲストに開催した。ファシリテーターは「タリウム少女の毒殺日記」が「選挙2」と同じ日に公開初日をむかえる土屋豊監督。インディペンデント映画を海外で売るには何が必要なのか、持続可能な映画作りのポイントを、具体的な例を用いながら赤裸々に語り合った。
●「選挙」を題材に海外展開のケーススタディ
ここ6~7年の間に、6本の“観察映画”を製作してきた想田監督。初監督作品「選挙」は世界200カ国近くでテレビ放映され、日本での劇場公開の際は約2万人を動員している。この「選挙」を題材に、海外展開のケーススタディをレクチャーした。「秘策はない、手探りで進める中で最低限“仕込む”ことをやり切る」と言う想田監督は、海外展開や宣伝は「相手のある話だから、失礼な言い方を敢えてするならば、餌を食べてくれるかはわからない、釣りのようなもの」と表現した。
日本の選挙を扱っており、日本で劇場公開をしたかったが、今でこそ国内外で注目を集める映画作家であるものの当時は誰も存在を知らない新人監督。120分もある、話題になる人も出ていない映画を、コネクションもない中でどう売り込むかを考えたところ、「海外で話題になって、逆輸入できればと思った。」しかし、いくつもの映画祭に出品するも、20ヶ所以上でリジェクトされる。
●映画祭は準備で勝負が決まる 
そんな中、2007年2月にベルリン映画祭での公開が決まる。ベルリンでいかに目立つかを考え、発案したのが「日本式の街頭演説プロモーション」。映画の登場人物である「山さん」こと山内和彦さんが自費でベルリンまで駆けつけ、メイン会場の前でタスキをかけて街頭演説をしながら映画をプロモーションした。結果、取材の幅も広がり、現地メディアのほか朝日新聞やニュース23にも取り上げられたとのこと。
独特のプロモーションも、緻密な準備があってのもの。想田監督は映画祭前、基本的な準備(プレスキットや抜き素材、ウェブサイト)を徹底し、映画祭が近づくと参加者リストから目ぼしい人をチェックし、片っ端からコンタクトを取った。尚且つ、30万円ほど支払って現地のパブリシストを雇ったという。事前準備の段階で大きかったのは、IFPの存在。(IFPについては鍋講座②世界の独立映画事情NY編~インディペンデント映画市場を支えるIFPの活動について~を参照)もともとIFPマーケットを通じて、ベルリン映画祭とつながったこともあり、IFPが開催している勉強会や、参加者との情報共有によって、パブリシストを雇うことを決めたとのこと。更に、IFPマーケットではBBCのプロデューサーに声をかけられ、世界33カ国以上の公共放送での一斉放送が決まった。
●気になる財政的な面は?
ドキュメンタリー映画は海外では劇場公開のハードルが日本よりも高く、テレビがほぼ唯一の重要な収入源となる。この公共放送での放映権として10万ドル(約1000万円)。アメリカの公共放送(PBS)での放映権も別途5万ドル(約500万円)。英語版DVDは300枚ほど販売。自主上映や図書館用の上映権付きDVDは、専門の配給会社や自社を通じて売った。日本の劇場公開での収入も合わせて、「選挙」では合計2000万円(!)くらいの収入があったという。
想田監督はこの2000万円を元に、生活をしつつ、7年間に6本のペースで新作を作っては公開し、資金を回収しては新作を公開してきた。「選挙」の次回作となる「精神」はワールドプレミアとなった釜山映画祭で賞をとったこともあり、日本での劇場公開の際は3万人を動員している。しかし、リーマンショック直後ということもあり、「精神」は海外ではほとんど売れなかった。韓国の配給会社やフランスの図書館網に配給権を売ったりはしたものの、ワールドセールスの会社のコストもかかり、売りにくい映画は放っておかれることを知ったという。
●『映画で食べて行きたい』~映画によって届けたい観客を考える
自分の作品のチャームポイントは自分が一番よくわかっている、と発言した想田監督に対し、土屋監督は「自分にはチャームポイントがわからない。魅力が何なのか、自信がない。配給に任せしようとかにはならないのか?」と質問。想田監督にとって配給会社は「一緒に問題を乗り越えられるパートナー」であり、宣伝コピーなども自ら考え、一緒に作っていくとのこと。「自分の映画だから情熱を持ってできる。やれることは全部やりたい。映画で食べて行きたいから仕事としてやっているし、インディペンデントの映画は作ってお客さんに届けるまでが仕事。」
また、映画ごとに客層が違うことにも言及。「精神」を日本で公開した際は「タブーの世界が開く」というポイントを軸に、自分の問題として考えられる映画として切り口を設定し、医療関係者や各地の医師会、学会、患者会、家族会などへもアプローチをすることで「見なきゃいけない映画」へとなっていったという。「演劇1」「演劇2」では、本来ならマイナスの印象を与えやすい尺の長さ(5時間42分!)を逆手にとり、イベント的な要素を出すことでアピールポイントへと転換。会社を休んで観に来る人が多かったという。
最後に、「映画は一に内容、二に戦略。この両方が不可欠で、かつ、この順番が大事。お金を儲ける目的で映画をやっている人はここにはいないと思うが、売れればいいじゃなくて、いかに作りたい映画を作り続け、それを届けていくかが重要」と締めくくった。
(レポート:高木祥衣)
*想田和弘監督の最新作「選挙2」全国各地の劇場で絶賛公開中!
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