鍋講座「Vol.3 新しい配給宣伝の方法を企む ~公開作戦会議①」レポート
10月19日(金) 19:30~22:00 アップリンク・ルーム土屋豊監督の最新作『GFP BUNNY ―タリウム少女のプログラム―』が東京国際映画祭「日本映画ある視点」部門で作品賞を受賞! というホット・ニュースが入ってきた、その一週間前、この作品をたたき台に、インディペンデント映画の配給宣伝を考える鍋講座が開催された。40人もの来場者でアップリンク・ルームは超満員となった。
司会進行には「モルモット」となる本作の監督で、独立映画鍋共同代表の土屋豊氏。ゲストは自主制作のドキュメンタリー映画を興行的に成功させている映画プロデューサーの大澤一生氏と、映画の配給・製作・上映で長い経験をもつアップリンク主宰の浅井隆氏。アップリンクは、監督と一緒に、『GFP BUNNY~』の配給を担当することになっている。2013年春に劇場公開予定である。
土屋さんいわく「前作を作った10年前から映画の公開方法が変わっていないことが不思議。何か新しいことを皆で考えていこうと思った」とのこと。今回の鍋講座は、インディペンデント映画の劇場公開をめぐる考え方やノウハウを、誰もが情報共有できる公開の場を作ろうという試み。互助会としての独立映画鍋の活動のひとつである。
『GFP BUNNY~』について話しあう前に、参考事例として大澤氏から『隣る人』(刀川和也監督、2012年5月ポレポレ東中野で公開)、浅井氏から『聴こえてる、ふりをしただけ』(今泉かおり監督、2012年8月アップリンクで公開)とその他の映画の劇場公開への道筋が、具体的な数字を記した資料と合わせて詳細に解説された。
大澤さんの話では、作品の仕上げから配給宣伝に至るプロセスに掲げた目標や実務、宣伝予算表とスケジュールの内訳、そして興行の結果推移までもを公表し、最終成績の分析がなされた。特に印象的なポイントは:「今までは完成してから宣伝を考えていたが、本作は作るところから興行を考えていた」「公開2週目で劇場が2週間の延長(計7週)を判断したのがよかった。興行は生き物のようだった」「当初はシニアが多かったが、「子ども」に関する全ての層をターゲットにした前売りが進んでいたので後半伸びた」最終的には「興行で2万人に届くか」「自主上映は150カ所」。「コンスタントに結果を出して行くこと。どう食っていけるかが大切」。
浅井さんは「中小企業の社長としてどう会社を維持していくか戦いの日々だ」と口火を切り、『聴こえてるふり~』との出会い(CO2上映で見て作品が素晴らしく、配給を決めた)、ベルリン映画祭での受賞とパブリシティとの連携、DCP素材など具体的な話を交えながらの公開への流れを語った。さらに文化村で9月に公開したアップリンク配給作品『わたしたちの宣戦布告』(フランス映画)の例も上げながら、話が進んだ。
『隣る人』と『聴こえてるふり~』は、宣伝費は60万円程度しか違わないのに、アガリがだいぶ違う。このことを巡る討論に、会場に観客として参加していたプロの映画ライターや宣伝マン、監督たちから次々事例報告や意見が出された。日本の人口ピラミッドを見て一目瞭然の「シニア問題」。試写状の撒きすぎ、名簿が古すぎ。パブリシティと動員の不確実な関係。ウェブの扱い。バナー広告のこと。SNSの実利と幻想。ツイートデッキやグーグル・アナリティックスというツール。総合的には宣伝の仕事量は増えているのではないか。
あまりに盛り上がり、あやうく『GFP BUNNY~』という宿題に戻れなくなりそうだったが、土屋さんの誘導により、本作の宣伝公開戦略を巡って次々にアイディアが出た。「シニア層は無視するしかない作品」「『先生を流産させる会』の成功から学べないか」「親殺し、というスキャンダラスを生かす」「携帯電話会社とのタイアップ?」「受け止められ方は客層によって違う」などなど。
そして浅井さんの提案により、作品タイトルを改訂してはどうかという「いまさらだけど」議論に。『GFP BUNNY』と『タリウム少女のプログラム』では、どちらをメインタイトル、サブタイトルにするか。そしてさらに幾つかの案を経て『タリウム少女の毒殺日記』ではどうか、会場の観客の挙手で市場調査が進み、会場は「ホンモノの」宣伝戦略会議の興奮に白熱したのだった。
この熱い討論が居酒屋に席を移し、午前様まで続いたことは言うまでもありません…。
(文責:藤岡朝子)