鍋講座「Vol.1 クラウドファンディングを知る①」レポート ~日本で進む資金集めの新しいカタチ~
8月24日(金) 20時~22時 下北沢アレイホール金曜夜、下北沢の雑踏。第一回目の講座なので、会場入り口がわかりにくいかとビルの外で風俗店の呼び込み嬢よろしく控えていたら、つぎつぎいろいろな人たちがアレイホールを目指して現れました。監督、プロデューサー、映画祭運営者、海外セールスに強い人、活動のベースがNYの人、字幕制作のプロ、新聞記者、TV番組ディレクター等…。
初めての鍋講座は、クラウドファンディングのウェブサイトmotion galleryから大高健志さんをお迎えし、参加した30人ほどの皆さんとの質疑応答や感想を交えながら2時間の勉強会となりました。
【motion galleryとは】
まずはサイト運営者の大高さんが簡単にmotion gallery(MG)立ち上げの意図と構想、日米事情の比較と分析、当サイトの特徴などについてプレゼンしました。パルムドールを受賞したのに公開されない『パリ20区』、みんなが「いい」と思ってるのになかなか進まない自然エネルギー開発など、投資家や金融機関の「儲けなくちゃ」「リスクは回避しなくちゃ」という論理では実現されない、生活者の求めているプロジェクトに資金を集めて実現させたいというところに出発点がありました。
そして単なるチャリティではなく、サポーターがプロジェクトの成果物をもらえる「誓約型」の資金集めとしてサイトを構想しました。日本人が寄付しない理由のトップ「寄付先の信頼の不透明さ」「手続きのめんどくささ」などがネットやソーシャルメディアの発達によって乗り越えられる時代にある今でこそ、のクラウドファンディング・サイトです。
MGでは、アッバス・キアロスタミ監督の『ライク・サムワン・イン・ラブ』の製作資金を500万円以上集めた実績があり、独立映画鍋も映画に特化したキュレーションページを設けるなど、映画に強いサイトとして定評がありますが、実際は幾つものクリエイティブ分野の交差点として、近年みられる日本消費者の趣味の細分化・タコ壺化を広げていきたいという意図があり、さまざまな文化分野のプロジェクトを受け入れています。スタートから1年間で30余りの企画がサイトに登場しています。
スタッフは6人(アメリカ大手キックスターターは26人!)で、ビジネスとして儲けることを前提にはしておらず、手数料も数パーセント。赤字にならない程度の財政状況だそうだ。「理想ではあるが、美しすぎないか?」という質問に、「数年後には自分も映画を作りたいので、そのための土壌づくりを」という大高さんの本音も聞けました。
【企画者のメリット、寄付者の特徴】
会場から出たいろいろな質問に対して、話は深まりました。プロジェクト・プレゼンター(企画者)の経験談から、金額や資金集めのプロセスが可視化されていることが励み(プレッシャー)になること、ある程度集まってからの「伸び」が難しいこと、結局は個人的なつながりが重要だということなどが出てきました。(アメリカのキックスターターでも、コレクター(寄付者)の80%がプレゼンターの友人かその友人であるという統計。それは伝統社会における冠婚葬祭の助け合いに非常に似ている。)有名人の企画でも「本当にお金を必要としているんだ…」という実感が伝わることが大事ということ。プロジェクト達成後のアフターサービスが怠りがちだが、後につなげるには重要だということ。
寄付する人のすそ野を広げるという課題はありますが、それと同時に、寄付者とプレゼンターがリアルなコミュニティを形成して互いに役割が循環することが望ましい、と大高さんは指摘します。
アメリカの納税者にとって、寄付することはごく普通のことになっています(毎年会計士に会うと「今年の寄付は幾らにしましょうか?」と聞かれる)が、日本の独立映画鍋でも寄付の税額控除が受けられる認定NPOを目指しています。アメリカのように、税額控除を寄付のメリットとして掲げ、映画関連事業への寄付を定着させたいという思惑です。
キックスターターのメーリングリストには300万人が登録しているので、それだけでも企画の広告効果は高い。『ハーブ&ドロシー』でも告知されてから10ドル程度の低額寄付がたくさんあったそうです。
【企画の審査】
次にサイトに「出店」できるプロジェクトの審査について話題が移りました。MGでは、「実行可能性」の判断がとにかく柱になっているようですが、他にも「仲間うちの受けねらい」のような社会的な意味の見えないプロジェクトは断っているとのこと。独立映画鍋のキュレーションページは、映画鍋の会員であれば誰でもプロジェクトを上げることができる原則となっていますが、今後話し合いを重ね、方針や見せ方を考えていく中で、「独自のカラ―」をどのように育てていくかを検討していきます。
キックスターターでは詐欺が発覚した事件がありましたが、MGでは今のところ詐欺などのトラブルはないそうです。悪意がなくても完成しないプロジェクトも十分想定されますが、今後あったとしても、サイトの運営者は、寄付した人とプロジェクト企画者との間をとりもつ中間業者でしかないという表明をサイト上で明示しています。ソーシャル・メディアにおける個人のアイデンティティが担保となり、プロジェクト達成への圧力となっているようです。
日本のインディーズ文化は、国境を越えたファンをつかめば寄付者のパイが増えるのでは? という指摘がありました。MGサイトもゆくゆくはマルチリンガル対応に変えていく予定です。
【寄付する人の満足度】
一回きりのプロジェクトではなく、インディペンデント映画を続けるにはどうしたらいいのだろうかというコメントが出ました。結局はリアルな場でのコミュニティづくりを広げていくこと、あらたな出会いを大事にして、周囲にいる人が「おもしろそう」と巻き込んでいく勢いを作っていくことの重要さ。お礼状などフォローの手間をシステム化して負荷をラクにしていくことができればベストです。
お金を出した人の精神的な満足感を大事にする必要があるとの意見が出ました。今まででは「(10万円出して)撮影現場を見学したことで、映画の楽しみ方が増えた」「期待するワクワク感があった」という声がありました。この反応をもっと世の中に知らしめて行く工夫を課題としたいところです。
今回の勉強会では、他のクラウドファンディング・サイトを利用したことのある人や米国在住の人など、多彩な参加者の経験談や疑問から、話が膨らみました。今後の鍋講座も、会員・非会員に限らず、さまざまな経験値をシェアできる参加者たちの集う場にしていきたいと思っています。次回は9月7日(金)、舩橋淳さんを迎えて米国の独立映画互助会の老舗「IFP」の紹介をきっかけに、日本での独立映画鍋の今後を考えます。
(文責:藤岡朝子)