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地域から次世代映画を考える:制作者の視点、上映者の視点


現在、日本映画の公開本数は15年前の2倍、およそ600本を数えるに至っている。これは50年代の最盛期すらはるかに上回る数字であるが、その多くはいわゆるインディペンデント映画である。日本のインディペンデント映画は、興行収入による回収の見込みが立たない低予算映画がその大半を占める現状にあるが、その一方で、国内外で高く評価された『野火』(塚本晋也監督、2015年)、『ハッピーアワー』(濱口竜介監督、2015年)、『淵に立つ』(深田晃司監督、2016年)など、大きな芸術的成果を生み出してもきた。公的支援の枠組みがない日本において、今もなお、インディペンデント映画は、各地で日々懸命につくり続けられている。これらの自律的自発的な創造性に依拠した映画こそが、日本映画の裾野を広げ、上記のような質的達成を下支えする沃土になってきたとも言えるのだ。
この間、こうした作品の受け皿になってきたのがミニシアターだった。しかし、近年、地方のミニシアターにおけるインディペンデント作品の動員力の弱体化は、すでに興行としてはなりたたないレベルにまで達しており、もはや東京の劇場で盛況だったから、国際映画祭で入選ないし受賞したからという理由では、地方の一般客の動員を期待すること自体が不可能になっている。地方のミニシアターにも、これからの映画を担っていくであろう若手の作り手や作品を応援したい思いがある。その一方で、このままでは溢れかえるインディペンデント作品の上映がミニシアターそのものを圧迫し、結果的に優れた作品が出口を失ってしまうことにもなりかねない。
こうした状況をふまえ、今回の2部にわたる上映・シンポジウム企画では、第1部で、映画のつくり手の視点から、映画に関わる人材・情報・資金が一極集中する東京から遠く離れて、地方で映画づくりを続けていくことの意義を問い、第2部で、映画の送り手の視点から、京阪神のミニシアターの取り組みを事例に、これからのインディペンデント映画の上映環境を考える。この企画が、今日の日本映画を取り巻く諸課題を共有し、そうした課題を乗り越えていく具体的な方策を見出していく機縁になることを願う。
立命館大学映像学部創立10周年記念事業
地域から次世代映画を考える:制作者の視点、上映者の視点

◎ 主 催:立命館大学映像学部、京都府京都文化博物館、NPO法人独立映画鍋、関西次世代映画ショーケース実行委員会
◎ 助 成:公益財団法人大阪コミュニティ財団
◎ イベントHP:http://eiganabe.net/kyoto/
第1部 映画はどこでもつくれる!か?~地方で映画を作るわけ~
日本の映画業界は“人材・情報・資金“が東京に一極集中している。その弊害は、“多様な価値観を有した映画が育まれる環境“を阻害している点にある。この状況を、地方在住の作家はどう捉えているのだろう。そもそも、なぜ彼らは地方で映画を作るのか?
福祉作業所職員、銀行員、ゲストハウス&カフェ経営、劇場スタッフなど、多様なライフスタイルの中で映画を作り続ける地方在住の監督たちの交流から、地方で映画を作ることの意義や課題を探りつつ、具体的な活路を見出していく。
司会:歌川達人(NPO法人独立映画鍋)
 
酒井 健宏(名古屋):1977年、愛知県出身。名古屋市在住。名古屋大学大学院情報科学研究科博士後期課程中退。大学・専門学校にて非常勤講師として映画史・映像理論を教えるかたわら、映像作家として作品制作に携わる。主に監督・演出を担当するほか、名古屋市周辺で企画・制作される学生映画や自主製作映画のプロデュース、上映活動、批評活動などをあわせておこなってきた。2014年、監督作『ハチミツ』が第1回LOAD SHOWコンペティションに入選。2016年、名古屋市港区西築地学区のまちづくり事業「平成28年度提案公募型事業」において学区を舞台にした映画の制作を提案し、監督・脚本を担当して映画『右にミナト、左にヘイワ。』として発表した。
 
佐藤 零郎(大阪):1981年、京都生まれ。2005年より映画監督佐藤真に師事し、ドキュメンタリーを学ぶ。2007年、大阪長居公園テント村の野宿生活者達が、強制的に立ち退きにあうときに、芝居をすることで 権力と対峙する姿を記録した「長居青春酔夢歌」が山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波(2009年)にノミネートされる。長居公園の現場でNDUの布川徹郎と出会い、以後行動を共にする。個々人として ドキュメンタリーを制作するのではなく、集団的な批評や議論を必要とした関西の若手ドキュメンタリスト の集団NDS(中崎町ドキュメンタリースペース)の立ち上げに関わる。2017年16mmフィルムによる人情喜劇「月夜釜合戦」完成。「映画と社会変革」を自身の創作活動のテーマとしている。
 
香西 志帆(香川):香川県出身。大学卒業後、百十四銀行に就職。2005 年より「さぬきシェイクスピア」で俳優として活動。2006 年よりさぬき映画祭の映像塾において中島貞夫監督に脚本を学びはじめる。2008 年、『UDON 禁止令』で初監督。その後、『カインの畑ー阿部家の絆編ー』、瀬戸内国際芸術祭オープニングムービーなどの映像作品を制作。 2012年、ことでん路線開通百周年記念映画『猫と電車ーねことでんしゃー』(主演 篠原ともえ)で長編映画初監督。地元のミニシアターで観客動員数で記録を出し、全国の映画祭でも高い評価を受ける。2014 年、長編映画第 2 作目『恋とオンチの方程式』(主演 夏菜)を制作。2017年、香川県を舞台にした短編映画『しまこと小豆島』を発表。
 
塩崎 祥平(奈良):奈良県大和郡山市出身。高校を卒業後、渡米。サンノゼ州立大学にて映画製作とメディアを学び、6年間を米国で過ごす。2004 年に帰国し百米映画社入社。2007 年3 月に、初監督短編作品「おとうさんのたばこ」を製作。その後、地方における映画製作に注目し、2011年春に新潟県佐渡島で映画「佐渡テンペスト」を企画プロデュース。2012年、出身地である大和郡山で伝統産業の金魚を題材に、長編初監督作品として、ファンタジー映画「茜色の約束」を手がけた。同作は関西では劇場2万人の動員。2017年現在、再び奈良県にて長編二作目「かぞくわり」(出演:陽月華、小日向文世、竹下景子)を制作中。
第2部 関西次世代映画ショーケース
京阪神のミニシアターはこれまでも特集上映「濱口竜介プロスペクティブ」(2013年)や、学生が500円で映画を観られる「え~がな500」などの取り組みを共同で実施してきた。この企画では、これらのミニシアターの館主たちとともに、地方の映画館における動員力の弱体化という課題を共有するインディペンデント映画の作り手や研究者、地域文化の担い手の方々を招き、京阪神におけるインディペンデント映画の上映環境を考える。ここでは、具体的な上映スキームを検討しながら、今後の共同事業の可能性を模索する。
司会:川村健一郎(立命館大学映像学部教授) 
 
福永 信(小説家):映像作家カワイオカムラのカタログ『ムード・ホール カワイオカムラ』(京都市立芸術大学ギャラリー @KCUA発行)の編集を担当。作品に『星座から見た地球』、『一一一一一』など。
 
土田 環(早稲田大学基幹理工学部・研究科専任講師):1976年、東京都生まれ。学生時代より自主上映の企画・運営、内外の映画祭プログラム、フランスやイタリアなど海外の撮影業務に携わる。山形国際ドキュメンタリー映画祭では特集上映のプログラム・コーディネーターを担当するほか、「Sputnik YIDFF Reader」の編集長、全体統括を務める。編著書に『ペドロ・コスタ 世界へのまなざし』、『嘘の色、本当の色―脚本家荒井晴彦の仕事』、『こども映画教室のすすめ』など。
 
松村 厚(映画宣伝):1962年生まれ。関西学院大学映画研究同好会。元第七藝術劇場支配人。現在、フリーの映画宣伝。映画『ばかのハコ船』(製作補)、『リアリズムの宿』、『ハッピーアワー』、『菊とギロチン』(以上、出演)。
 
山崎 紀子(シネ・ヌーヴォ〔大阪〕支配人):1977年大阪生まれ。大阪美術専門学校にて3年間油彩画を学ぶ。梅田花月の夜だけ映画館「シネマワイズ」にてアルバイトを経て、2001年シネ・ヌーヴォに入社。2008年支配人に就任。
 
林 未来(元町映画館〔神戸〕支配人):1974年生まれ。大学在学中に映写技術を習得し、卒業後は映写技師として劇場に勤務。元町映画館には工事段階から関わり、2010年のオープン時は映写技師として勤務、2013年9月に支配人就任。
 
吉田 由利香(京都みなみ会館支配人):1988年京都市生まれ。京都造形芸術大学映像芸術コース卒業後、京都みなみ会館に就職、映写兼受付スタッフとして従事。2012年同館館長に就任。
 
田中 誠一(出町座〔京都〕支配人):1977年生まれ。シマフィルムにて映画製作(主にアソシエイトプロデューサー、配給)、映画人発掘育成事業「シネマカレッジ京都」、映画・書店・カフェの融合文化施設「出町座」の運営を担当。
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